I'm proud of

 雫の担任から電話をもらった。以前の学校での話だが、一度そのようなことを経験していたため、今度は何事かと心配にもなる。ただ、その内容は安室の危惧していたようなものではなかった。
「授業参観の案内、ご覧になりましたか?」
「……授業参観ですか?」
「やっぱり……。雫ちゃん、すぐに欠席で返事を出してきたんですけど、どうもそれが雫ちゃんの字にそっくりで」
安室は妙に納得した。彼女ならやりかねない。安易に家のごみ箱にプリントを捨てるなんてことをしないあたり、妙に知恵が働くものだと感心する。その一方で「そんなことしなくていい、馬鹿だな」と頭を撫でてやりたくもなる。
「すみません。日程はいつでしょうか?」
「ええと――」
担任の口から日時が告げられる。返事は改めて、ということで一度電話を切った。
 そのままスマートフォンでカレンダーを確認する。仕事のスケジュールを確認したところ、なんとか行けなくもない。どうしたものかと頭を捻らせる。カチカチと部屋に響く秒針の音は、まるで安室を急かしているかのようだ。
 その日の夕食中、安室は動いた。
「雫、何か学校で困ったことはないかい?」
「え……ないよ?」
一瞬の間、逸らされた視線、はっきりしない語尾。明らかに彼女は動揺していた。もともと隠し事のできる性格ではないのだろう。ただ、彼女のやっていることは全く悪意のないこと。むしろ仕事に忙しい安室に対する善意だ。安室もそれがわかっているから、彼女を責めたりはしない。ただ、少しだけ悪戯心が湧いてしまったのである。
「そう。何かあったら、ちゃんと言うんだよ」
「……うん」
電話のことを彼女には告げなかった。彼女は隠し通したつもりでいるはずだ。
 そして授業参観当日。朝のうちに仕事を片付け、家に戻る。いつもよりも少しカッチリとした恰好に着替えて学校を目指した。近くの駐車場は満車だろうから、今日は歩きだ。
 安室のペースで歩くと、小学校までさほど時間は掛からない。門を跨いで雫の居る教室を目指す。少し時間に余裕を持って家を出たため授業はまだ始まっていなかったが、保護者と見られる人物は数人いた。窓から教室を覗き込んで、雫の姿を探す。――彼女はすぐに見つかった。少しだけ顔を俯けているのは、寂しい思いをしているからだろうか。
 もしかしたら父親が来ることができないのを気にしているのかもしれない。早めに声を掛けて励ましてやろうと思ったが、その前にコナンに見つかってしまった。コナンは目を見開いて、小走りで安室に近づいてくる。
「あ、安室さん! なんでここに?」
「なんでって、僕は雫の保護者だからね」
「でも雫ちゃん、安室さんは来ないって……」
「へえ、そんなこと言ってたんだ」
コナンは何かを察したらしく、慌て始めた。
「あ、でも、雫ちゃんもきっと安室さんに気を遣って……」
「うん、わかってる。別に怒ったりなんてしないよ。よければ雫に後ろを向いてくれるよう伝えてくれないか?」
コナンはコクコクと頷くと、すぐに雫のもとへ走り、耳打ちをした。そして雫は驚いたような顔をして、勢いよく後ろを振り返る。信じられない、というところだろうか。雫はそのまま固まってしまった。見かねた安室が手を振ってやると、彼女は戸惑いながらも微笑んで手を振り返す。ちょうどそのとき、授業開始のベルが鳴った。
 それから雫が後ろを向くことはなかったが、いつもよりソワソワしているのは感じられた。彼女を見ていると、自然と頬が緩む。子供ができたらこんな穏やかな気持ちになるのだろうか。
 授業が終わると、雫は真っ先に安室のところに走ってきた。そのまま勢いで転んでしまいそうな彼女を抱き留める。ただ、彼女も他の友達に見られて恥ずかしかったようで、すぐに体は離れた。
「お兄ちゃん、なんでここにいるの?」
安室は小さく笑った。雫は安室の笑った理由がわからないようで、きょとんとしている。
「全く同じことをコナンくんにも聞かれたよ。僕がここにいるのは雫の保護者だから。それじゃあダメかい?」
「ダメじゃない……けど、なんでわかったの?」
「雫は隠し事が下手だからね」
本当は彼女の担任の電話がなければ、安室は気付かなかった。だが、それをわざわざ伝える必要もないだろう。雫は驚き、何かを考えていたようだが、また顔を俯かせる。そして安室の服の裾を小さな手で握ってこう言うのだ。
「あの……ごめんなさい」
「ん?」
「わたし、お兄ちゃんにプリント見せなかったから……」
落ち込む様子の彼女の頭を撫でてやる。確かに褒められた行動ではないが、彼女の優しさは安室に伝わっていた。
「雫は僕が忙しいと思ってそうしてくれたんだよね?」
「……うん」
「ありがとう」

 帰りは手を繋いで、ゆっくりと二人で色付く木々の道を歩いた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なに?」
「お兄ちゃんのことね、みんなかっこいいって言ってたよ」
「そう、嬉しいな」
ふふ、とまるで自分のことのように得意気な雫に、安室は更に口元を緩めた。

自慢のきょうだい