The man was innocent
学校の帰り道、少年探偵団と一緒に歩いているときのことだった。
「あれ、安室の兄ちゃんじゃねえか?」
元太の言葉に顔を上げると、確かに兄が歩いているのが見えた。哀は彼を見ると、さっと表情を変え、用事があるからと走り去ってしまった。元太と光彦が何か揉めていたが、次に現れた人物に歩美が声を上げると、全員の興味がその男に移った。
「あの人……」
雫もその男性には見覚えがあった。最近よくポアロに姿を見せるのだ。しかし、様子がおかしい。彼は兄を尾行しているようだったのだ。コナンが静かに男性の後を追い始めると、全員がそれに続いた。
急にコナンが立ち止まり、元太がぶつかりそうになる。コナンは曲がり角の先を指差して、この先は行き止まりだと言った。
「僕に何か御用ですか?」
いつの間にか男性の後ろに回り込んでいたらしい兄が問いかける。男性はこの先に用があっただけだと言うが、明らかに嘘だ。兄は更にいくつか質問をしたが、男性は答えることなく走りだした。
逃げる男性の後ろに兄、その後にコナンと探偵団たち。兄の手がもう少しで男性に届きそうだというところで、兄は携帯を片手に立ち止まった。コナンたちは気にせず男性を追って行ってしまう。しかし雫は兄のことも気になったので、その場に立ち止まったのだ。電話を終えた彼は、にこりと笑って言った。
「あの人のことはコナンくんたちにまかせて、買い物に行こうか」
「え、買い物?」
聞けば、ポアロで使うアイスクリームが切れているとのこと。先ほどの電話は梓からだったらしい。
「でも、いいの? あの男の人」
「うん。悪い人ではないみたいだからね」
「……そうなの?」
兄が大丈夫だというのなら、そうなのだろう。スッキリしないままだったが、雫はそれ以上聞くことをしなかった。
買い物を終え、ポアロに向かう。目当ての物を梓に渡すと、彼女は急いでカウンターの中へ入っていった。
「せっかくだし、雫も食べる? クリームソーダ」
「うん。食べる!」
鮮やかな緑色の液体に、シュワシュワとはじける泡。浮かべられた真っ白なバニラアイスがとても美味しそうだ。小さなスプーンでぱくりと一口。キーンと冷たさが口内に広がる。
「どう? 美味しい?」
「うん」
「良かった」
客足も少なかったため、雫はそのまま彼と喋りながら過ごした。
空になったグラスを梓に下げてもらう。すると、来客を告げるベルの音がした。
現れたのは先ほどの男性。彼はテーブルを拭く兄に後ろから近づいて、肩に手をかけた。
「お兄ちゃん!」
「安室さん!」
雫が叫ぶと同時に、店内に息を切らしたコナンが入ってくる。コナンが発した言葉に、誰もが驚いた。
「おじさん……あなたは、パン職人ですね?」
コナンの推理は当たっていた。男性は商店街のパン職人で、ポアロで出されるサンドイッチが美味しいとの評判を店に来たのだという。実際にその味に感動し、何とかして作り方を調べようとしていたのだそうだ。そして、何故こんなことになってしまったのか。
兄を中心にして、その周りには人の輪。彼はサンドイッチを作る工程を丁寧に披露している。パン職人の男性は兄に頼んだのだ。サンドイッチの作り方を教えてほしいと。流石に作り方を教えるのは無理だろうとコナンは呆れていたが、予想に反して兄はあっさりと頷いた。そして、男性が勤めるパン屋でレシピを使用していいということで話は終わる。
ポアロからの帰り道。夕日を背に二人は手を繋いで歩いている。
「なんだか今日は疲れたね」
彼の意見に雫は同意した。今日一日――特に放課後がとても長く感じたのである。
「でもびっくりした。お兄ちゃんのサンドイッチ、すごく評判なんだね」
「僕も驚いたよ。そうだ、今度あの人の店に行ってみようか」
「うん」
「彼はパンに関しては真面目だから、きっと美味しくなると思うよ」
尾行はやりすぎだと思うけどね、と彼は笑う。本当にその通りだ。いくら大丈夫だと言われても、店で彼が詰め寄られているときは怖かった。心配する身にもなってほしい。ぺしんと彼の手を叩いてみたが、雫の気持ちが伝わるわけでもなく、彼はきょとんとしていた。
そこに悪意はなくとも