It's our day

 あったかい。少し眠気の残る中、ゆるゆると瞼を開くと赤井さんの整った顔が目の前に。赤井さんはまだ眠っているようだ。
 昨夜、赤井さんは突然訪ねてきた。どうやらわたしと休みを合わせるために、全力で仕事を終わらせてきたらしい。わたしは成すすべもなく抱き枕にされて、狭いベッドの上で一夜を明かした。赤井さんが腕に力を入れるから、少しだけ寝苦しかったけれど、すごく安心して、気付けば朝の十時になってしまったというところだ。
 赤井さんの目元には、くっきり隈が残っている。これだけ寝てもなくならないということは、癖になってしまっているのだろう。彼を起こさないように、そっと指でなぞる。いつも隙のない彼がわたしに好きにされているなんて……。思わず顔がにやけてしまった。
 一通り赤井さんの寝顔は堪能した。だが、これからどうすればいいだろうか。できることなら、赤井さんが目を覚ましたときのために食事を準備しておきたい。だけどわたしの体は赤井さんの腕にぎっちりと固定されていて、ベッドから抜け出すのは難しそうだ。ゆっくり寝ている赤井さんを起こしたくはない。けれど、朝食の準備をしたい。思い悩んでいると、眉間に温かさを感じた。びっくりして顔を上げると、そこには意地悪そうな顔をした赤井さんが居て。
「あ、あ、赤井さん! 起きてたんですか!?」
「皴が寄ってるぞ」
ぐりぐりと眉間を押される。痛くはないし、嫌でもない。だけど、ものすごく恥ずかしいのだ。
「やめてくださいよー……」
「なんだ、不満か?」
「……そうじゃないですけど」
「ならいいだろう」
赤井さんはそう言って、さっきわたしがやったのを真似するように、わたしの顔のあちこちを指で撫でた。直視できなくて、目を閉じる。だけどそのせいで、赤井さんの指の感触をいっそう強く感じてしまった。
 赤井さんの手はなかなか止まらなかった。優しく撫でられるのは気持ちいい。だけど、これじゃあまるで――
「ペットみたい……」
「……そんな風に考えたことはないが、まあ……癒しであるのに違いはないな」
もう一度、ぎゅっと抱きしめられる。赤井さんがこんなに甘えてくるなんて珍しい。かわいい、と口にすると機嫌を損ねてしまいそうなので、無言で頭をくしゃくしゃと撫でてみる。
「朝ご飯の準備をしますね。出来上がるまで、赤井さんは寝ていてください」
「いや、今日は俺が作ろう」
そう言って、ベッドから抜け出そうとする赤井さんを慌てて引き留める。いつも働きづめなのだから、休日ぐらいはゆっくりしてほしいのだ。
「真紀だって休日だろう。きみの料理は美味いが、いつも作ってもらってばかりだからな」
でも、と言いかけたわたしを無視して、赤井さんは台所へ行ってしまった。こっそり後を追いかけて、その様子を眺める。
 赤井さんの料理姿なんて……と思っていたのは大間違い。ラフな格好でフライパンを転がす彼は、なかなか絵になっている。更に低いキッチンと彼の背の高さがアンバランスで、それがまた良いのだ。このままずっと眺めていたいぐらいの光景。けれど、すぐにその時間は終わってしまった。

「ほら、出来たぞ」
「わ、目玉焼き!」
「……きみは半熟が好きだったな?」
「はい! 覚えててくれたんですね」
上機嫌で箸を黄身に入れる。とろりとハムの上に流れる黄色が、食欲をそそる。
 ぱくり、と一口。――美味しい。これを赤井さんが作ったと思うと、尚更そう感じる。こんな風に赤井さんとゆっくり過ごせるなんて、幸せだ。サラダやスープにも手を付けて、ふと赤井さんの表情を窺う。彼はじっとこちらを見つめて、目を細めて笑っていた。
「どうかしました?」
「いや、きみがそんな顔をしてくれるなら、料理をするのも悪くないと思ってな」
「えへへ……。だって美味しいんですもん」
「それは良かった。……今日はどこか出掛けるか?」
「えっ、えー! どうしよう……!」
これは滅多にないチャンス。買い物に行くのもいいし、映画も観たい。水族館も捨てがたい。最後は美味しいレストランに寄るのもいいなあ、なんて想像が膨らむ。でも、それとは別に家で二人でダラダラする時間も欲しい。考え込んでいると、赤井さんに笑われた。
「何も今日が最後ではないんだ。そんなに悩むな」
「だって……」
「それなら今日は俺が全部決めるが、いいか?」
「はい! それがいいです!」
「……何だ? 行きたい場所があったんじゃなかったのか」
わたしがこんなに喜んでいるのを、赤井さんは理解できなかったようだ。確かに自分の行きたいところに連れて行ってもらうのもいいが、彼にすべて任せてエスコートしてもらうということにも夢がある。赤井さんはいつもわたしの我儘ばかりを聞いてくれるから、彼がどんなところに連れて行ってくれるか楽しみなのだ。もちろん赤井さんと一緒なら大抵の場所を楽しむことが出来るので、本当はどこに行くにしてもいいのだが。
「いえ、いいんです。今日は赤井さんの行きたいところに行きましょう!」
「そうか。後で文句を言うなよ」
「言いませんよー。それじゃ、早く仕度しないと!」
そうと決まれば一秒でも時間を無駄にしたくない。急いで部屋に戻って着替えなければ。だが、そこであることが気にかかった。
「あ……ズボンとか、動きやすい格好のほうがいいですか?」
まさかとは思うが、山登りなんて言われたら。嫌ではないが、それならそれで相応の服装をしなければならない。
「何を考えているか知らんが、その必要はない」
「そうですか。じゃあ、今度こそ着替えてきますね」
クローゼットの中を物色して、お気に入りのワンピースを取り出す。本当ならもっと悩みたいところだが、悩み始めるとなかなか決まらないものだ。そして手早く化粧を済ませて、部屋を出る。赤井さんはいつものニット帽を被っていて、準備OKというところだろう。はしゃぐわたしに呆れながらも、赤井さんは手を差し出してきた。本当にエスコートしてくれるようで、胸が躍る。玄関を跨ぐと、やわらかな日差しが心地よかった。

ある休日のできごと