転生したら角名倫太郎に振られた後の世界だった16
春の高校バレー、優勝候補の稲荷崎高校が初戦敗退。
ボールが落ちる瞬間を私はベンチで見ていた。スローモーションのようにボールが床に跳ね、周りの声が遠くなり、自分だけ別世界にいるような感覚だった。
しかし時は待ってくれない。私は対戦校であった烏野高校のマネージャーさんと握手をして、選手と並んで応援席に向かって頭を下げた。余韻もそこそこに私たちはコートから退場した。次の試合の準備が始まるため長居はしていられないのだ。
北さんと監督はメディア対応をしていた。「引退」という言葉が北さんの口から出たのを聞いても、まだ私には実感として沸いてこなかった。体育館に北さんが……三年生の先輩たちがいない。次は私たちが三年生になって新入生を迎える。もっと先のことだと思っていたのに……。
北さんはすぐにみんなとところへ戻ってきた。治くんと侑くんが謝ろうとしたのを北さんが容赦なく止める。「謝んのはホンマに悪いと思とる時にしいや」そう、そうなんだけどなかなかそれが難しいんだよね。
試合には負けたけど、どちらにせよ最終日に帰る手筈で準備を進めていたから明日明後日も試合観戦することは決まっていた。後片付けを終えた私は会場内で角名くんを探す。もしかしたらすでにホテルに帰ってるかもしれないけど、なんとなく居る気がしたのだ。だってタダで負けて帰るような人じゃないから。それならどこにいるかメッセージで聞けばよかったのだけど、試合の直後ということもあって躊躇した。もしここで見つけても、そっとしておいてほしい感を察したら私は黙って気づかない振りをするつもりだった。
しかしそんな私の気遣いをよそに、ぽんと通知が飛んでくる。
「どこいる?」
あまりにもいつも通り過ぎてびっくりするけど、これが角名くんなのかもしれない。私はすぐに返事をして角名くんと合流した。
「おつかれさま」
「おつかれ」
少しの沈黙のあと、私たちは観客席に座った。「あのさ、」角名くんはコートを見下ろしながら言った。
「あんだけ必死になって東京まで連れてきたくせにとか
「思うわけないじゃん」
角名くんがあんまりなことを言うから遮ってしまった。ねえ、本当はそんなこと思ってないよね。
「……わかってるけど、もうちょっとかっこつけたかった」
「かっこよかったよ、みんな」
「みんなかよ」
角名くんは首をすくめてジャージの襟に口元を隠した。拗ねたみたいでかわいい。本当なら今すぐ抱きしめてこれでもかというくらいに甘やかしてあげたいけど、それはもう少し我慢しなければならない。
「悔しいね」
「……ん」
「インハイまでには新幹線乗れるようにするから」
「別に無理してほしいわけじゃないんだけど」
「今度ね、立ち会ってもらってホームまで行くことになった。カウンセリングも三回受けたよ」
「はあ? 聞いてない」
「ごめん。今度からは言うようにする」
「って言われると強く言えなくなるし」
「ふふ、ごめんね」
下のコートで試合が始まる。自然と言葉数が少なくなって、終盤にはもうほとんど話すこともなかった。
兵庫に戻ってきた私たちは、例の横断幕を背に記念写真を撮った。笑顔の北さんが中心にいて、あとはまちまち。そして北さんの背番号である「1」は侑くんに託されることになった。
「頼んだで」
北さんがまさか私にそんなことを言ってくるなんて思っていなかったから、びっくりしてすぐに返事が出来なかった。
「……はい!」
遅れて言えば、北さんはにこりと後輩たちに声を掛けに行った。
***
2013年の夏は、福岡だ。スマホで宿の近くのラーメン屋やお土産を調べていたら角名くんには「フラグじゃん」と呆れられたけど、今年の私は一味違う。
九州行きの新幹線乗り場で私はみんなと一緒にいた。カウンセリングとリハビリを重ねた甲斐があったというものだ。
もう大丈夫だって言ってるのに、角名くんはずっと私にぴたりとくっついていた。嬉しいけど、一年生がびっくりしてるからほどほどにしてほしい。
新幹線がホームに到着する瞬間、角名くんは私の手をぎゅうと握ってきた。
「いたい」
「……何があっても離さないから」
ありがとう、大好きだよ。でも今はちょっと喋れる気がしないから、あとで言うね。