転生したら角名倫太郎に振られた後の世界だった15

「バレー部二年」が向かった先は職員室だった。監督の席の前にずらっと並び、一体何をするつもりなのか。監督からも戸惑いが感じられる。誰かが角名、と言った。
「監督、こいつのこと東京に連れて行ってやってください」
 角名くんに続いて三人が「お願いします」と声を揃えて頭を下げた。
 監督もびっくり、私もびっくりという状況だ。ポカンとしていたら侑くんが上から頭を押さえつけてきて、一緒に頭を下げさせられる。
「……いや、俺は最初からそうする言うてんのやけど」
 監督が言うと、侑くんは「ほれ見い!」と顔を上げた。
「やっぱお前が意地張っとんのが悪いんや!」
「ツム職員室やで。静かにしぃや」
 ギロッと侑くんが治くんを睨みつける。しかしすぐに、全員の視線が私に向いた。どうするつもりなのか、という圧をひしひしと感じた。
 そして私はというと、すでに泣きそうだった。だってみんながここまで私の東京行きについて考えてくれていたなんて、思わないじゃないか。治くんに問われた「チームの一員としての自覚があるか」という話。ああこういうことだったんだなと、私は今になって実感していた。
 ギュッと口と肩と手に力を入れてうつむく。嬉しいのと苦しいのがぐちゃぐちゃになって私の中でせめぎ合っていた。
「よし頷いたな」
(えっ)
 侑くんが「ほな練習戻りますんで」と言い、職員室を後にする。続いて治くんが銀島くんと一緒に出ていった。
「あの、」
 私は監督と角名くんを交互に見た。
「……お願いします」

 職員室を出て、私はわざと角名くんのほうを見ないでいた。なんか気まずい。ただそれだけの理由だった。
 ここまで手回ししてくれたのは間違いなく角名くんだろう。こういうとき、言わなきゃいけないのは多分「ありがとう」だ。わかっているのになかなか言葉が口から出てこなかった。
「……っ」
 口元に手を当てて嗚咽を押さえつけようとしたけれど、堪え切れず肩が跳ねる。
「ちょっとサボってく?」
「……サボらない」
「真面目かよ」
「真面目なの」
「……犬の映画じゃ泣くくせにって思ってた」
 犬の映画って。角名くんはあの映画あんまり楽しめなかったのかな。今度は角名くんが好きなやつを一緒に見たい。そのあとはどこかでご飯を食べて、一緒に手を繋いで仲良く家まで帰るのだ。
「それはまた違う話じゃん」
「東京行きたかったとか一言も言わねーし」
「……怒ってる?」
 角名くんは首を振る。
「もうちょっと頼られたかったなって話」
「そんなの、」
 私としてはこれでもかというくらい頼りにしているのに。角名くんの前ではすぐ泣いてしまうし、甘えたくなるし。角名くんには毎日家の前まで送ってもらっているけど、本当は私が角名くんを寮まで送り届けてあげたいくらいだ。角名くんはその辺を全くわかっていない。
「俺じゃなくても……いや本当は俺がいいけど、監督もいるし、あいつらでもいいし」
「私……角名くんのこと頼ってるよ、いっぱい」
「じゃあもっと頼って」
「……今度また荷物持ちして」
「いいよ。俺一人で足りる?」
「足りる」
「りょーかい」
 ポンと背中を叩かれる。なんかいろんなものが目や口から飛び出るんじゃないかと気が気でなかった。
「角名くん、」
 大きく息を吸ってその名を呼べば、肩の力が抜けた気がした。
「ごめん、ありがと」
「どういたしまして」
 角名くんは体育館に戻って行って、私は外の水道でジャグを洗った。ついでにバシャリと豪快に自分の顔もすすいでおく。気持ち的に落ち着いたらあの三人にもお礼を言っておかないと。考えていたらまた目元が熱くなってきたので私は何度も水で目を洗い流した。

「別に大したことしてへん。俺らチームやろ?」
「ああ、角名戻ってきたときなんかニヤついとったで」
「うわジャージびっちゃびちゃやん」
 上から銀島くん、治くん、侑くんであった。

 これはあとから聞いた話なのだが、四人は早い段階で監督にお願いしようと相談していたそうだ。しかし、予選も終わってないのに東京行きの話をするのもなあと、強豪校のくせに案外謙虚なところもあったのだった。確かに治くんにそれっぽい話を聞いたのは予選のときだった。それで侑くんのユースの件もあってゴタゴタして、今の今まで伸びたと。
「まあマネージャーは俺らが予選敗退するとか一ミリも思ってなかったみたいだけど」
「……それはあの、決して怠慢とかそういうことではなく」
「わかってるって。でもそういうとこもかわいい」
「……っありがと!」
 角名くんは私を照れさせるのが趣味らしい。だから対抗して私もヤケクソでこんな返事をしてしまうのだ。声を押し殺して笑う角名くんの背中に私はベチッと一発入れた。