15話
レネはこれまでの長い旅路を語った。未来から来たというクオードの話だけにとどまらず、ドミネウス邸に飛ばされたあの日から今日のことまでを。
レネが話を終えると、メレアーデが口を開く。
「ということは、パドレ叔父様とキュルルは事情を知っていたのね?」
「……うん。騙しててごめん」
「私はいいわ。それよりクオードよ。あの子ったらあんなに大勢の前であなたを抱きしめて……」
「わ、はっきり言わないで」
思い出しては顔に熱が集まってくる。
レネは入れ替わった後、フードを被って大衆に紛れていた。キュロノス破壊の際にも、密かに呪文で援護をしていたのだ。当然クオードが錬金術で作られたレネの姿をしたものを抱きしめていたところも見ていた。自分が抱きしめられたような気になって、心臓が爆発してしまいそうだった。
「でも良かったわ。レネが無事で。これで全部終わりだったら良かったのだけど、私の旅はこれからみたいね」
「……メレアーデ?」
「あなたたちをここまで導かなければならない。そうでしょう?」
メレアーデの言う通りだった。
レネは旅の中で何度もメレアーデに助けられた。彼女はレネたちを導くため、未来から時渡りをしていたのだ。メレアーデがいなければレネはここまでたどり着けなかっただろう。
「あの子が帰ってきたらキューブを借りないといけないわね」
「クオード、反対しそう」
「そのときは無理にでも奪ってみせるわ」
ふふ、とメレアーデはウインクして見せた。
「メレアーデ……」
レネがメレアーデに抱き着く。メレアーデは優しい手つきでレネの頭を撫でた。
「心配いらないわ。私の無事はあなたが証明している。きっとまたすぐに会えるわ」
「……うん」
「さ、そろそろ私たちは退散しましょう!」
ぱん、とメレアーデが手を叩く。レネは首を傾げた。メレアーデとパドレ、それにキュルルまで軍団長室を出て行こうとしている。ドアに手を掛けたメレアーデが、ふと歩みを止めた。
「でも叔父様はいいのかしら? かわいい娘が甥にとられちゃうかもしれないのよ」
「そうだな。クオードには後で決闘を申し込まねばならん」
「っメレアーデ! それに父さんまで!」
たぶん、顔が今までにないぐらい真っ赤になっていたのだろうと思う。三人に笑われてしまった。レネは一人残された軍団長室でクオードの帰りを待つ。
それからの時間はレネにとってとても長いものだった。
椅子に座ってみたり、机に顔を伏せてみたり、じっとしていられない。クオードが今日に帰ってくるかも分からないのに、レネは軍団長室を出ようとしなかった。
日が沈みかけたころ、レネの耳がカチャリと小さな音を拾う。扉が開いてレネは息を呑んだ。
クオードは何も言わなかった。静かにただレネとの距離を縮めていく。レネも引き寄せられたかのように歩みを進めた。どくどくと鼓動が大きくなる。彼が今から何をしようとしているか、自分が何をされるかなんて分かりきっていた。待ちきれずに両手を広げる。レネは目を閉じた――。