ゴロツキ時代のボスの娘に再会する04

(はー、もう何もわからん)
 彼女とどう接するべきか。顔を合わせなくていいのなら楽だが、ここへ連れて来たのは自分だ。放置するなんて無責任なことはしたくない。
 朝の八時。なまえの部屋のドアをノックしながら「起きてるかー」と声をかける。多分、好きだとか言われなきゃ連絡先くらいは交換していた。
 そろりとドアが開き、なまえが顔を見せる。わかりやすく目が腫れていた。……が、全く気にしていないという態度を取らなければならない。
「聞いてへんかったけど、仕事とか予定とか大丈夫やった?」
「……今、仕事してました」
「え……あ、そうなん?」
「パソコンあったらできるから」
「準備ええなー」
 あの大きいカバンの正体はパソコンだったようだ。仕事の心配をしなくていいのならよかった。あとは犯人さえ捕まえられれば神々廻の仕事は終わりだ。
「もう少ししたら俺の代わり来るから、今日はそいつと部屋におって」
「……神々廻さんは?」
「悪いけど今日は他の仕事行かなあかんねん」
「ここには戻ってこない?」
「あー……どうやろ、ちょっとわからん」
 今日の任務は神々廻のほかに南雲と大佛も呼ばれている。ORDERが三人も集められるのはかなり珍しい。仕事の内容はまだわからないが、楽な仕事でないのは確かだろう。
「……気をつけて」
「おーきに」

 コロレンスクラッチ……毎回思うが、もうちょっと他に方法はないのだろうか。
 南雲が三枚分の料金を払い、スクラッチを差し出してくる。
「はい。一億当たったら折半で~」
「そのボケ毎回すんのやめぇ」
「神々廻さん五円貸して……」
「爪でいけるやろ」
 南雲と大佛、二人揃うと大体こうなる。無視したら余計にうるさくなるのがわかっているのでこうして毎回、茶番に付き合うのだ。
 スクラッチを削ると、暗号にもなっていないような絵が六つ現れる。次の仕事は京都だそうだ。殺し屋殺しが発生しており、現場には×印。スラー一派の可能性があるということだった。
「ほな車の手配してくるわ。昼は各自で済ませて一時にいつもんとこで合流でええ?」
「え、神々廻さんお昼奢ってくれるって言った」
「言うてへん」
「僕は寄るとこあるからまたあとで~」
 ひらひらと手を振りながら南雲が去っていく。大佛は動こうとしない。神々廻は観念して、
「昼、何食べたいん?」
 と聞くのだった。

 大佛希望のうどんを食べ、車の手配も終わり、しかしまだ時間に余裕がある。神々廻は助手席に座る大佛にちらりと目をやった。
 一人であれば、ホテルに戻って京都へ行くことをなまえに説明していた。やっぱり連絡先を教えてもらっておくべきだったなと後悔する。手配している職員には報告は済ませているから、このまま出発しても問題はない。ただ昨日の今日で、あんな話をしたばかりだ。一人にして大丈夫なものかと気がかりではあった。
(突き放しといて今さら気にするとか)
「神々廻さん、まだ時間あるからお菓子買いたい」
「ならコンビニ入るわ」
(今は俺の顔、見たくもないかもしれんし)
「コンビニ通り過ぎてる……」
「駐車場入りにくそうやってん。もう一個先んとこでええやろ」
(あーもうめんどくさ)
 結局、昨日なまえと一緒に来たコンビニまで神々廻は車を走らせていた。
「なんでこんな遠くまで来たの?」
「……寄りたいとこあんねん。十分で戻るわ」
 大佛の返事を待たずに神々廻はホテルへ向かった。
 十分は言い過ぎたかもしれない。せめて十五分と言えばよかった。遅れたらまーたチクチク言われる。スーツなんぞ着ているせいで暑くてしかたない。

「京都行くんじゃなかったの?」
 ドアを開けたなまえはきょとんとしていた。護衛の職員から神々廻の出張のことは聞いたそうだ。車飛ばして走ってきたのが恥ずかしくなるくらいに「なんでわざわざ戻ってきたの?」が伝わってくる。
「忘れもんして、ついでっちゅうか……」
 こんな嘘までついて、何がしたかったのだろう。戻ってくる必要なんてなかった。
「もしかして走った?」
「……急いどったし」
 サッと自身の髪を撫でつける。どうにも間が悪い。
「あー……昨日買ったやつ持ってくるわ」
 逃げるように隣の部屋へ入り、菓子の入った袋を掴む。もちろん忘れ物などないのでまたすぐに部屋を出ることになった。
「はやっ」
 ドアを開けたまま待っていたらしい。彼女はくすくす笑いながら袋を受け取った。よく見たら、朝よりも目の腫れが引いている気がする。
「ちょうどお腹空いてたからよかった~」
「なら行ってくる」
「いってらっしゃい。……あ、そうだ。これ持っていって!」
 行こうとした神々廻の背中に何か放り投げられる。反射で受け取ったそれはチョコレートの箱だった。いらないと言えばいらないが、わざわざ返しに戻るほどでもない。神々廻は顔の隣で箱を振ってカシャ、と音を鳴らした。そしたら今度は彼女が手を振ってきて、どうしてなのか神々廻は少し笑ってしまっていた。

「……遅い」
「まだ十分も経ってへんやん。ほんでまたえらい買ったな」
「神々廻さんが食べたいって言ったから」
「言うてへん」
「だってもうチョコ取ってる……」
「いやこれお前が買ったやつちゃう」
 車に乗り、神々廻はさっそく貰ったチョコを開けた。中身を一つ取って口の中に放り込むと、甘くて口の中が痺れそうになった。
 隣からのじとりとした視線を感じる。別に全部自分で食べようとしていたわけではない。大佛は買った菓子を全部一人で食べようとしているようだが。
「ええよ食べて」
「神々廻さん一個でいいの?」
「なんで全部やったことになってんねん」