武器オタク(♀)は男子耐性がない4.5

 勢羽夏生はイライラしていた。……もとい、焦っていた。なまえのことである。
 ブキ科の中で話すようになったことは別にいい。しかし他のやつらとは話しているくせ、なまえは勢羽にほとんど話しかけてこない。勢羽から話しかけたとしても、時折りおびえているような表情も見せる。なんでだよ。

 なまえは要領の悪い女だった。発想とかひらめきはいいのに、何もかも自分だけで解決しようとするから製作に時間がかかってしまう。見ているとじれったくなることもあった。しかし面倒なことに、そんな要領の悪い人間のことを勢羽は嫌いではなかった。
 気づいたら目で追っていた。そうしたら余計になまえのことが気になってくる。工房ではなまえがいないとき、たまになまえの話をする。女子一人ですげーよな、とか。さっき明らかに困ってたっぽいけど声かけられなかったわ、とか。誰もなまえに話しかけなかったけど、気にしているのは明らかだった。
 勢羽はどちらかというと、女子と会話するのにうんざりしていた。告白された回数はもう覚えていない。面倒ごとを避けるために自分から女子に話しかけないようにしていた。だから先輩たちのものを拝借することはあっても、なまえの持ち物には手を付けたことがなかった。
 まあでもなまえは他の女子とは違うよな。と言い訳しながらなまえが作ったモーターに手を付けたのは、単に出来がよかったというのもある。それと、なまえがどんな反応をするのか気になった。ところがなまえからは何も言われなかった。どう考えても犯人はわかっているだろうに。そしてあろうことかモーターをイチから作り直そうとしていたのである。勢羽には信じられないことだった。
 さすがに見ていられず話しかけたら、目に見えてうろたえていた。まさかモーターを返して「ありがとう」と言われるとは。そして勢羽は遠慮しなくなった。しかしなまえはいっこうに何も言ってこない。
 先にしびれを切らしたのは勢羽のほうだった。
「で、なんで何も言わないんすか?」
 まるでヘビに睨まれたカエルのようだった。小さい体をさらに小さくして、泣きそうになっている。しかも顔が真っ赤。普通ならまたかとうんざりするところだが、今回は違うとわかっていた。
 なまえは勢羽だから赤くなっているのではなく、勢羽が男だからこんなになっているのだ。
「……もう、盗むのやめてください」
(は!?)
 勢羽はショックを受けた。少しだけ、本当に少しだけだが、かわいいと思ってしまったのである。そして同時に心配になった。こんなんでJCCでやっていけるのかと。

 それからなまえは勢羽を避けるようになった。それ自体は案外平気だった。というか、むしろそういうところに安心していた。
 避けられたままでは面白くないので、また話しかけることにした。だけど実は勢羽もそんなに慣れているわけではなかった。一度かわいいと思ってしまったせいか、変に意識してしまう。食堂でなまえの隣に座るには勇気が必要だったし、話題の保険として彼女と同じ鍋焼きうどんを透明スーツまで使って注文したくらいだ。

***

(あー……、だる)
 さっきまでなまえが座っていた隣の席に、毒殺科の女が座っている。なまえはこの女に遠慮したというか、逃げた。それもまた面白くない。勢羽の心についた火がどんどん大きくなっていく。
 女を適当にあしらって工房に戻ると、なまえはすでに作業に取り掛かっていた。課題の提出物だということはわかっていたので、勢羽も黙って自分の机に向かう。そうして数時間が過ぎ、ふとなまえのほうを見てみると、明らかに困っているではないか。
 たぶん部品が足りないのだろう。なまえはまた一人でどうにかしようとしていたから声を掛けた。仲間意識みたいなものも多少はあったと思う。

 ネジを渡して終わりでもよかったのだが、それだとなんだか下心だけで動いているような気がして、周りに対するフォローもすることになった。とんだおせっかい野郎である。他のやつらにも頼ってみるよう促すと、
「男子に話しかけるとか、無理」
 やっぱかわいい。……いや違う、頼られているような気持ちになった。本人はそんなつもりで言ったわけじゃないとわかっていたけど、なんとかできないものかと考えた。その結果、焦るハメになったのだが。
 面白くない。一言で言ってしまうとこうだ。自分よりも他のやつらに心を開いているように見えたし、勢羽が意識しているせいか、工房の外でもなまえの噂を耳にするようになる。「ブキ科のなまえさんってなんかよくね?」的な。いやお前らに何がわかるんだよ。全然面白くない。
 JCCは男の比率が高い。したがって女子がいればそれだけで目立つ。そして彼女がほしいような男はこぞって毒殺科の女を避けるわけだから、なまえに目を付けるのも理論上はまあ、理解できる。理解できるけど、納得はできなかった。
 勢羽はなまえと距離を縮めようとしたが、ほとんど効果はなかったように思う。食堂に誘っても「なんで?」という顔をされるし、名前を呼んでみても無反応。勢羽が告白されていたってお構いなし。だからもう、外堀を埋めることにした。
 しかしそうと決まってからも、なまえはしぶとかった。彼女のフリをしてほしい。二回は断られても、三回頼めばどうにかなると思っていた。しかしこの女、なかなか首を縦に振らない。あまりにも頑なだから勢羽は自信を失くしかけていた。まあ最終的にはゴリ押しでいったわけだが。
 工房で付き合っているとアピールしたとき、先輩に「よかったな」と言われた。明らかに勢羽に向けた言葉だった。バレてんのかよ。なまえは気づいていなさそう……というか、それどころじゃない感じだった。