武器オタク(♀)は男子耐性がない04

 勢羽が告白されている。

 またか。なまえは思った。なんでこんな人目につく場所でやるんだ……と目を逸らして、もしかしたら人目につかない場所ではもっと告白されているのかもしれないと気づいた。盗み聞きをする趣味はないので立ち止まらずその場から離れていくと、後ろから「なまえさん」と呼び止められる。顔を見ずとも勢羽だとわかった。
「なに?」
 話は終わったのか? と思い振り返ると、勢羽がムスッとした顔で立っていた。そして廊下の先にはさっき勢羽に告白していた女子生徒が立っていて、遠くてはっきりとはわからないけど目が合った気がした。
 頼むから男女のいざこざに巻き込まないでくれ。勢羽にそんなつもりはないのかもしれないけど。なまえは勢羽よりもその女子生徒のほうが気になっていた。
「なんで助けてくれないんすか」
「ええ……?」
 なまえがそんなことせずとも「今は学業に専念したいから」と断りまくっている男だ。それに勢羽があの女子の告白をどうするかなど、なまえが知るわけもない。
「……どうしてほしかったの?」
「普通に声かけてくれれば」
「ヒトが告白されてるのにそんなことする?」
「俺がいいっていってるんで。今度からはお願いしますね」
 勢羽が何を言っているのか理解できない。嫌だと口で言うより先に首をブンブン振って拒否を示した。
「後輩が困ってんのに助けてくれないんすか」
「……や、自分でどうにかしてください」
 そうこう言っているあいだにフラれたであろう女子生徒はどこか行ってしまった。そして勢羽は相変わらずムスッとしている。でも考えてみれば普段からこんな顔かもしれない。にこっと笑っている顔を見たことある人はいるんだろうか。
「ヨツムラ賞取ってからああいうの多くなってめんどいんすよ」
(……自慢か?)
「彼女いるってことにすっかなー」
「勢羽くんがいいならいいんじゃない?」
「じゃあなまえさんと付き合ってるってことにしときます」
「いやなんで!?」
「だって彼女いるっつったら誰? ってなるじゃないすか」
「まあ、」
「このこと知ってんのなまえさんだけだし、他にアテもねーし」
 だからってそんなことある? なまえとしては何がなんでも断りたいところだ。もしそんなことになったら殺される。主に勢羽を狙っている女子に。それに付き合うふりと言われたって何をするのか全くわからなかった。なまえは誰かと付き合ったことがない。男友達と呼べるような相手だっていない。そんなことも知らないんすか、と勢羽に鼻で笑われる未来が容易に想像できた。
「でもほんとに好きな人ができたとき困るかも! お互い」
「……なまえさん好きな人いるんすか?」
「いないけど……」
「じゃあ決まりで」
「待って待って」
「まだ何かあります?」
「勢羽くんの彼女とかぜったい周りから注目される。私はひっそり過ごしたい」
「あ~……や、そんなことないと思いますけど」
 勢羽の目は泳いでいた。つまり自分が注目される存在だと自覚しているというわけだ。
「まあでもなまえさんも男避けになるしいいじゃないすか」
 この男はなまえに男の影が全くないというのを知らないらしい。ここ最近少しマシになったぐらいで、以前は教授以外の男と喋ることすらなかった。わかってて言っているなら本当に腹の立つヤツだ。
「私、勢羽くんみたいに告白されたことないよ」
 言わなくていいことまで言ってしまった。見栄を張るつもりはなかったが、これはこれで勢羽を困らせてしまうかもしれない。
 勢羽は表情を変えなかった。けど、内心馬鹿にされてるんだろうなとなまえは思っていた。
「なまえさん結構狙われてますよ。気づいてなかったんすか?」
「……そんなわけない」
「まあ武器オタクたちがどうかは知らねーけど、暗殺科のやつらが話してるの聞いたことあったんで」
「嘘だ……」
「なまえさんが作った武器借りに行こうかって計画してましたよ」
「……」
「そういや毒殺科のやつは自作の惚れ薬がどうとか言ってたなー」
「え、怖い……」
「まー俺がいたらそんなことにはならないと思いますけどね」
「……」
 少し心が揺らいでしまった。ブキ科の男子と話す分にはほとんど抵抗はなくなったと言っていい。同じ武器オタクとして安心できるのだ。しかし他の科となるとそうはいかない。そもそも勢羽の言っていることが本当なのかも怪しいけど、万一ということもある。JCCには女子が少ない。だから彼女を作ろうと思えばものすごく倍率が高い。でもだからってわざわざこんな武器オタクを選ぶか……? なまえが悩んでいると、勢羽に手を掴まれた。
「もういいですよね」
「よくないけど!?」
「今ちょっと悩んでたでしょ」
「悩んでな「ナツキくーん」
 なまえが言いかけたところで、また別の女子生徒がやってきた。すごいな。なまえはもはや感心していた。これなら嘘の彼女が欲しいというのもわかるかもしれない。巻き込まれるのはごめんだが。
 女はなまえのことを気にもせず勢羽に話しかけていた。
「何してるの?」
「告白してました」
「「え」」
 なまえと女の声が重なる。
「……ナツキくん、彼女は作らないって」
「邪魔しないでもらっていいすか?」
「ご、ごめん……」
 女はパタパタと走り去っていた。
 嘘でしょ。強行手段で来やがった。なまえが唖然としていると、勢羽がグイと腕を引いてくる。
「まー諦めてください」
 しかしこんな自分勝手なことを言うわりに、
「……本気で嫌になったらいつでもフッてくれてくれていいんで」
 と、謙虚なのかそうでないのかよくわからないことを言ってくる。
 なまえは、はっきりと返事をせずにいた。迷っていたのもある。あんな場面を見られたのだ。もはや何をしても手遅れで、素直に諦めたほうがいいのではないかと。しかし今さら「いいよ」と言うのも恥ずかしい。
 なまえは勢羽に腕を引っ張られながら工房の前まで来た。まさかこのまま中に入るのかと思いきや、手を離されたのでホッとする。だけど距離がいつもより近い。工房に入ったとき、最初は誰も二人のことなど気にしていなかった。最初は……。
「なまえさん消しゴムなくなった」
「は!?」
 ここで大きな声を出したせいで周りに注目されてしまった。だけどそれも仕方ない。だって勢羽が横からペトッとくっついてきたのだ。
「だから消しゴム」
「ああはいどうぞ」
 とにかく早く離れてほしかった。その一心で消しゴムを渡した。同期が信じられないといった目をしている。対して勢羽は全く気にしていない。
 なまえ自身、自分がどんな顔をしているかもわからなかった。ただ周りの反応を見るに混乱していることは伝わったのだろう。だから勢羽一人がおかしいという空気になった。
「ナツキお前、距離感バグりすぎだろ……」
 それは本当にそう。なまえも同意しかなかった。だがこの先、勢羽が何を言うか想像できたのでできればやめてほしかった。
「付き合ってんだから普通じゃないすか?」
「「ハア!?」」
 みなが勢羽となまえを交互に見る。なまえは自分の顔が赤くなっていくのを感じた。そしてそれはそういう意味だと捕えられた。
「マジかよ」
「まじっす」
 よかったな、と誰かが言った。勢羽はそれを無視していたし、なまえもそれどころではなかった。