フレリアとグラドの戦いは国境付近で拮抗していた。この前線を押し上げるため、エフラムたちが攻めたのはリグバルド要塞。兵の数も地の利もグラドにある。そんな中で、エフラム率いるフレリア軍は迅速に玉座を制圧して見せた。勝因は人の心。エフラムはそれを見抜いていたのだ。グラドは同盟国であり、それ以上に親しくもあった。突然の侵略に兵たちの士気も低調だったのである。実際に、グラド兵はルネス侵略の理由を知らされていなかった。エフラムが玉座を制圧すると、すぐに皆が降伏したのだ。

 エフラムはすぐに進軍を告げた。彼の中には一刻も早く戦争を終わらせねばならなという決意があったのだ。
「きゃっ」
「大丈夫か?」
倒れそうになったところをエフラムに支えられる。大きな手、広い胸。触れたのは僅かな間だったが、明確にそれを感じ取ってしまう。
「あ……ありがとう」
「グラドは地揺れが多いからな。気を付けた方がいい、戦闘中に足を取られるかもしれん」
「そうね、わかったわ」
気を取り直して足を進めようとしたところ、後方よりフレリア兵が現れる。「本国より報告申し上げます」と一礼をして。
 ヒーニアスはカルチノ共和国を経由してジャハナ王国へ向かっていた。しかしカルチノで内乱が起こり、ヒーニアスは進路も退路も断たれてしまう。そこでヒーニアスの救出にエイリークが向かった。だが、その後の消息は不明、ということである。
「そんな……」
「くっ……ロストン行きが最も安全だからエイリークを行かせたというのに……」
エフラムは苦渋の表情だった。何と声を掛けていいのかわからない。エフラムはエイリークを助けに行きたいはずだ。しかしそれは許されることではない。
「エフラム様」
「ゼト……。わかっている、情に流されるなと言うのだろう。このまま進軍する。そう伝えてくれ」
「承知しました」
程なくして軍は再びグラドへ動き出した。先ほどの一報などなかったかのようだ。
「心配するな、エイリークは無事だ。ああ見えて、剣の腕も立つ」
「エフラム王子……」
一番心配しているであろうエフラムにそんなことを言わせてしまうなんて。どれほど酷い顔をしていたのだろう。
「ごめんなさい……相応しくない態度だったわ」
「いや、俺の分まで心配してくれたんだ。構わないさ」
エフラムは上に立つ者としての自覚がある。だからこその振る舞いだ。彼はフレリア軍を率いるトップであり、後にルネスの王となる器である。部下の前では毅然とした態度でいなければならない。
「ねえ、わたしはルネス国民じゃないわ」
「ん? そうだな」
「それに、フレリアの兵士でもない。だから……」
次の言葉は寸前のところで飲み込まれた。前方で戦いが起きていたのだ。
「ねえ、誰かこっちに向かって来ているわ!」
「追われているのか? あれは……デュッセル将軍?」
「知り合いなの?」
「俺の槍の師だ。彼はグラドの将軍なんだが……様子がおかしいな」
エフラムの言う通りだった。彼は一人、グラド兵に追われているように見える。
 皆がエフラムの命令を待っていた。険しい表情でデュッセルを見つめるエフラムをゼトが促す。
「エフラム様、ご命令を」
「……デュッセルを救出する! 行くぞ!」
エフラムの号令に兵が応える。士気の高まったフレリア兵は天に武器を掲げ、グラド兵を迎撃する。