転生したら角名倫太郎に振られた後の世界だった07

「え、これどういう集まりなん」
 治くんのもっともな疑問に角名くんは、
「二年一組バレー部」
 ケロッと言ってのけたのだった。
「ごめん……」
「いや、ええけど俺は」
 謝り倒す私を前に治くんはちらりと角名くんを見た。なんとなく含みのある視線だったけれど、角名くんのほうは完全無視を決め込んでいた。

「……いや、謝りよったわりに全然遠慮ないやん」
 二人の手には米、トイレットペーパー、洗剤などなど……。そう、私はせっかくのチャンスだからと二人をコキ使うことにしたのだ。だってこんなチャンス二度もないだろうし。
 申し訳ないという気持ちは一応まだある。なんだか召使いのような扱いになってしまった二人を見ながら私は笑いを堪えた。……いや、悪いとは思ってるんです本当に。まあ、これに懲りて荷物持ちなんて二度としないと思ってくれたらいいんだけど。
 しかしさすが運動部とも言うべきか、二人は私なんかより軽々と荷物を持つ。すごいねえとおだてたら、二人は何やら顔を見合わせてアイコンタクトを取っていた。コイツ調子いいこと言いやがって、みたいな感じだと思う。

 私たちは一度家に戻って荷物を置き、ラーメン屋に向かった。私の家と学校の中間くらいにあるこの店は、バレー部でもたまに行く馴染みの場所のようだ。
 男二人で並んで座るとカウンターが狭く感じるということで、私が真ん中に。カウンターの丸い椅子が彼らの身長には低すぎるみたいで、折り曲げられた足が窮屈そうにしている。
「体格いいと大変なこともあるんだね」
「俺はもうちょい身長欲しいわ」
「俺も」
「まあ、バレーやってたらそうか……」

 兵庫のラーメンは何がメジャーなんだろう。どうせなら地元の名物を食べたい。だけど角名くんが醤油を頼んで治くんが味噌を頼んだからわからなくなってしまった。それなら私は塩にしようかと思ったけれど、塩はなかったので醤油を選んだ。これは単純に味噌より醤油のほうがメニューの上にあったからという理由である。
 食べている間、案外二人は静かだった。治くんはラーメンに集中している感じ。角名くんはラーメンというよりも、三人いたらあまり喋らなくなるタイプなのかなと思った。いつもだったら治くんより角名くんと話すことが多いけれど、今日は治くんとのほうが喋っている気がする。

「……あとは何買うの?」
 店を出てすぐ角名くんに聞かれた。まだ買うのかよ、という呆れを感じる。
「冷凍庫に入るだけ冷食買っときたい。あとはインスタントとかレトルトも。米もあと一袋欲しいかな~……」
 うげえと角名くんは表情に出す。
「一人暮らしって買い物するだけで大変なんやな」
 と治くん。なんか意外と普通に付き合ってくれている。角名くんの人選はわりとよかったのかもしれない。……というか角名くん、あなたが最初に荷物持ちするって言ったんですけどね? まあ、二度とそんなこと言い出さないように重労働させているわけだけど。だけどやっぱり悪いなと思う気持ちもあるわけで……。
 二度目の買い物を終えて家に戻り、私は買い物袋からあるものを三つ取り出した。
「アイス食べてく?」
「「食べる」」
 二人の声は見事に重なった。

 リビングに自分以外の人がいるというのが新鮮だった。アイスを食べる二人を眺めていたら、年の離れた弟を見ているかのような気持ちになる。もしかしたら私は寂しかったのかもしれない。三人で買い物をしてラーメンを食べて、まだ一人になりたくなかったからアイスで二人を釣ったのだ。
「食わへんの?」
 治くんの言葉で自分の手が進んでいなかったことに気づく。私はやわらかくなった食べかけのアイスをほぼ隙間のない冷凍庫に無理やり入れた。
「ラーメンがまだ残ってて」
「少食なんやな」
「このまえ銀にサンドイッチ買わせてたけどね」
「……お金、ちゃんと払ったし」
「そこなんだ」
 ククッと角名くんが笑う。笑いを堪えようとしているのはわかるけど、全く隠しきれていない。そんな角名くんを尻目に見ながら私は洗濯機のスイッチを押しに行った。本当なら出掛ける前に済ませておきたかったのだが、なんとなくやりたくないと思ってしまう瞬間がたまたま今朝だったという話だ。
 私がリビングに戻ったときには、すでに二人ともアイスを食べ終えていた。帰るきっかけが必要かなと思って「今日はありがとう」と、改めて言う。
「別に荷物持ちくらい、いつでもするけど」
 あんなに面倒くさそうな顔をしておいてこんなことを言うとは、角名くんもなかなかだ。……でも、嬉しい。
 ここでまた、治くんが角名くんのほうを見た。今日はなぜか目で会話をしているらしい。まあ角名くんはわざと無視しているみたいだから、会話ではないのかもしれないが。

 二人を見送って、静かになったリビングのソファに座る。洗濯機が止まるまでに掃除機をかけておきたい。頭ではそう思うのに、瞼の重さに抗えなかった。
 約二週間ぶり見た夢の中で、私はセーラー服を着ていた。おそらく中学生なのだろう。交通事故で亡くなった両親を火葬場で見送っているときの夢だった。

 目が覚めると日が落ちていて、ソファがわずかに濡れていた。そっと頬をなぞると涙らしきものが指に付着する。……あ、洗濯物。
 本当ならもっといろいろやるはずだったのに。洗濯物を取り込みながら私は一日の終わりを悲観した。たぶん夢の中の私に感情が引きずられていたのだと思う。両親の死を思い出して悲しんでいるわけじゃない。だけど胸がざわざわしてどこか気持ち悪いのだ。私はここで初めて思い出すのを怖いと感じた。別に今のままだって何も困らない。部活は楽しいし、勉強だって頑張ればなんとかなる。だからこのままでいさせてよ。
 私は冷凍庫を開けて食べかけだったアイスを取り出した。一度溶けたアイスはカチカチに凍っていて、スプーンがすんなりと入らない。それにあまりおいしいと思えなかった。