トリップしたけど昔アニメをちょっと見ただけでタソガレドキを知らない話11
落ち込んでいたって仕事はできる。これは会社勤めをしていたときからそうだ。今回はどちらかというと働いて気を紛らわすと言ったほうが正しい気もするが。
私に何の処分も下らなかったということは、オーマガトキの兵士を治療したのは誰も知らないのだろう。あのときは不安で仕方なくてどうかなりそうだったのに、日に日にその気持ちは落ち着いていた。我ながら、現金だなあと思う。
ただ山本の前で泣いてしまったというのもあって、このところ毎日日替わりで忍者が話しかけてくるようになった。なんとなく雑渡の指示だろうなと思った。というか、そうでもなければ尊奈門が表立ってわざわざ私の体調を心配してくる(しかも不服そうな顔で)はずがないのだ。高坂は一緒に昼食を食べてくれた。もう大丈夫だよって何度か言いたくなったけど、みんなの厚意に甘えてしまっていた。
タソガレドキとオーマガトキの戦いは、冷戦状態が続いているらしい。戦が長引くにつれて物資が不足してくるんじゃないかとも思ったけど、むしろ行商人の行き来で町は活気づいていた。
あの兵士はどうなったんだろうと考えるときがある。無事に領地に戻れただろうか。タソガレドキとの戦いに参加しないでくれるといいなと、勝手なことを考えている。
***
尊奈門が全身真っ白になって帰ってきた。怪我はないらしいからよかったけど、尊奈門はすごく悔しそうにしている。
「洗濯するから装束を脱いで。何があったの?」
「何でもない。おのれ土井半助……」
「……土井半助?」
どこかで聞いたことのある名前だと思った。そしてすぐに思い出せたのは、ちょうど死ぬ寸前に彼が出てくるアニメを見ていたからかもしれない。
尊奈門は衣装を脱ぎながら、いぶかしげな目を向けてきた。
「おまえ、土井半助を知っているのか?」
「……いや、初恋の人と同じ名前だなあと思って」
「初恋?」
今度は哀れむような視線を向けられる。そうだ、この時代で私は行き遅れ。そんな女が初恋の人だなんだと言ったら同情されてもおかしくない。全くそんなつもりじゃなかったのに。どうやって誤魔化していいかわからなくて差しさわりのないように言っただけなのに。
「あ、まあ……別人だと思うけどね」
というか別人であってくれないと困る。
話はここで終わるかと思いきや、尊奈門は意外と食いついてきた。彼もここでは大人として扱われているけれど、そういう話に興味があるのだろうか。
「そいつはどんな奴なんだ?」
「え、えーっと……優しくて、かっこよくて、学校の先生をしているの」
「……」
尊奈門は眉を寄せた。そして真っ白になった装束を指差して「これはチョークの粉だ」と言う。
「チョーク?」
(チョークってこんなに昔からあるんだっけ……)
尊奈門は頭を触りながら「出席簿の角で殴られた」とも言った。
「その土井さんって人はオーマガトキの人なの?」
「違う。忍術学園の教師だ」
「え!」
「おまえの初恋の人なんじゃないか?」
「ち、違う!」
違う、違うのだ。それはアニメの話であって……。
だけど「土井半助」だけならまだしも「忍術学園」が出てくるなんて。あのアニメが歴史上の人物を描いていたという話は聞いたことがない。私もそこまで詳しいわけじゃないけど、何かおかしい気がする。確かめたいけど、私が余計なことを言ったせいで話がややこしくなってしまった。尊奈門は完全に私が土井半助と知り合いだと思っている。本当にやめてほしい。彼も子供じゃないから本人に言ったりはしないと思うけど、問題は雑渡だ。
「ねえ、無理だと思うけど……この話は雑渡さんにはしないで」
「……なぜだ?」
「なぜって……」
雑渡は私が未来から来たということを知っている。それで私の初恋の人がここにいるかもしれないなんて話を聞いたらまた面倒なことに……いや、そんなわけないと一蹴してくれるかもしれない。私の勝手で尊奈門に嘘をつかせるなんて、あってはならないことだ。
「ごめん。やっぱり話してもいいよ……。上司に嘘をつくわけにはいかないよね……」
「今は組頭を好いているから、内密にしておきたいということか?」
「は……ハァ? 違うけど!? なんで!?」
我ながらこの慌てようは怪しいと思う。だけど急に思わぬ方向へ話が進むから、とっさに叫んでしまったのだ。
「おまえ本当にわかりやすいな」
勝手に納得したらしい尊奈門から、心底哀れむような目を向けられた。組頭におまえは相応しくないってか。逆にもうそれでいい気がする。初恋の話を言いふらされないのであれば。
尊奈門は新たな装束に着替え、また出て行くそうだ。のんびりムードの戦かと思っていたけど、動きがあったらしい。
「ねえ、どうしてオーマガトキと戦をしているのに忍術学園の先生と戦うことになったの?」
「この戦のカラクリに気づかれてしまったのだ」
普段なら絶対に教えてくれなかったと思う。これは初恋の話が効いているみたいだ。忍者としては良くないのかもしれないけど、情に厚いところがあるからみんなから末っ子みたいにかわいがられているんだろう。
「戦のカラクリって?」
「それは教えられない」
「……私も連れて行ってって言ったら困るよね」
「遊びじゃないんだぞ」
「……ごめんなさい」
尊奈門を見送ったあと、もしもここがあのアニメの世界だったとしたらと考える。普通なら信じられないけど、タイムスリップを一度受け入れた頭では「あるかもしれない」という気持ちになっていた。
それから一つ、重大なことに気づいてしまった。忍術学園の先生と敵対しているということは、タソガレドキは悪役だ。忍術学園の敵といえばドクタケ城のイメージだったけれど、私が知らないだけで敵対している城は他にもあったのかもしれない。今まではオーマガトキに対して有利に戦を進められていたけど、もし忍術学園がオーマガトキに加勢をするのだとしたら……。悪役が負けるのはある種のお約束だ。雑渡もタソガレドキの評判は悪いと言っていたし、考えれば考えるほど間違いない気がしてきた。
(どうしよう。みんなが危ない……)
殺し合ったりするような世界観ではなかったと思うけど、先の戦で大量の怪我人を治療してきた身として何もなく終わるとは思えなかった。それに私が行ったところでどうなるという話だ。負け戦だから撤退してほしいと伝えたところで信じてくれるとは思えない。でも、雑渡ならもしかしたら……。
きっと雑渡は戦の前線にいるはずだ。どうか間に合って……。
スニーカーに履き替えた私は、薬と包帯を持って城を飛び出した。戦は止められないかもしれないけど、怪我人を治療することならできる。誰か一人でもいいから助けたい。オーマガトキの兵士を助けてしまった罪滅ぼしにはならないかもしれないけど、こんな私にだってできることはあるはずだ。
今回はスニーカーを履いているということもあって、山道がだいぶ楽だった。だけど正確に戦を行われている場所がわかるわけではないので、町や村で聞き込みをするしかない。途中で何度か転んだ。だんだん足がもつれてくる。
「あれぇ、おねーさんこんなところで何してるの?」
「あ……」
ドクンと心臓が跳ねる。私に声を掛けてくれたのは、あの「しんべヱ」だったのだ。
やっぱりそうだった。つまりタソガレドキの負けは濃厚だ。でも、早い段階でこの子に会えたのはラッキーだったかもしれない。道が間違っていなくてよかった。いろいろな感情が混じり合って、自分でもよくわからなくなっている。
「どうしたしんべヱ!」
上級生らしき子たちが続いて現れる。何人か顔を見たことある気はしたけど、名前まではわからない。彼らは台車で何かを運んでいるようだった。
「食満先輩! おねーさんが……」
食満と呼ばれた男の子が、しんべヱと私の間に割って入る。
「失礼、あなたはここで何を?」
「私はタソガレドキ城から来ました。戦を「えー! おねーさんタソガレドキの人なの!?」
「しんべヱ、少し黙ってろ」
後ろで見ていた子たちがしんべヱを取り押さえる。食満は私に話の続きを促した。
「戦をやめてほしくて……」
「ここまではあなた一人で?」
「……はい」
「なぜ戦を止めようと?」
「この戦には何かカラクリがあると聞きました。それで、嫌な予感がして……」
「カラクリとは?」
「内容までは教えてもらえませんでした」
食満は考えているようだった。私は敵地の人間なのだから当然だろう。私は彼らに危害を加えるつもりはないけど、それは向こうからしたらわからないことだ。食満には後輩たちに対する責任がある。私も正直にタソガレドキ側の人間だと明かすかどうかは迷った。だけどもし捕らえらえたとしても、戦場へ連れて行ってもらえるかもしれない。だから賭けることにしたのだ。まあこれも、彼ら忍たまたちにそう酷いことはされないだろうという確信があったからできたことなのだが。
「食満先輩何してるんですか! おねーさん足を怪我してますよ!」
しんべヱが押さえつけられたまま叫ぶ。
「台車に乗ってもらって、ぼくたちで村まで運んであげましょうよ!」
「あ、ああ……」
しんべヱに押される形で、私は村まで連れて行ってもらえることになった。食満は私のことを警戒しているようで、ずっとこちらをチラチラと見てくる。でも私としては、しっかりしてるなあという感想しか出てこない。
しんべヱはおにぎりを食べると、その身体からは信じられないほどの力で台車を押した。そしてまた途中でおにぎりを食べて、という繰り返しだ。
「ごめんね、余計に重くなっちゃったね」
「平気ですこのくらい!」
「しんべヱくんは力持ちだね」
「へへ……褒められちゃった」
しばらく進むと、園田村というところに到着した。私の処遇は先生たちが相談して決めるらしい。ただ私が怪我をしていたのもあって、先に救護所へ行かせてもらうことになった。
救護所の中にはたくさんの薬草と包帯が積まれていた。それから「乱太郎」がいた。しんべヱに続いて乱太郎。これはもう疑う余地もない。他にも見たことのある上級生……この人は知っている。保健委員会の、不運な……名前が思い出せない。
「ぼくは保健委員会委員長の、善法寺伊作です。足の処置をしますので、さあこちらに」
「えっと……」
戸惑う私を前に、伊作は人のよさそうな笑みで首を傾げた。私のために彼らの薬をわけてもらうのは申し訳ない。私が自分の薬を出すと、彼は「えっ」と目を丸くした。
「薬を持っているのにどうして手当てをしなかったのですか?」
「……これは戦で傷ついた人たちに使おうと思って。でも、みなさんの薬をわけてもらうのは申し訳ないなと」
「あなたがそんなことでは、助けられる人も助けられませんよ」
「……すみません」
こちらが恥ずかしくなるくらい、すごくしっかりしている。私は自分の薬を使おうとしたけど、よく効く痛み止めがあるらしいので、それをわけてもらうことになった。
「園田村特産の痛み止めは、量を誤ると毒になる。これは僕の許可なく使わないこと」
伊作が言うと、乱太郎ともう一人の一年生の子が「はい」と返事をした。この子は伏木蔵というそうだ。二人は伊作が私の足の手当てをしているところをじっと見ている。
「はい、できました。傷自体は酷くないけど、無理はしないように」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
伊作はにこりと笑ってすり鉢で薬草を煎じ始めた。他の子たちも布を裂いて包帯を作ったりと、それぞれの仕事をしている。
「あの、伊作くん」
「どうしました?」
「私も手伝っていい? あまり知識はないんだけど……」
「もちろん。僕たちが教えます」
私は伊作に教えてもらいながら薬を作っていった。タソガレドキでは使っていない薬草もあって、すごく参考になる。伊作は教えるだけでなく、できあがった薬をいくつかわけてくれた。
「もらっちゃっていいの?」
「ええ。でも分量だけは守ってくださいね」
「……そうじゃなくて、本来私たちって敵同士だから」
「あなたの仲間を助けたいという気持ちはぼくたちと同じです。それに仕事も手伝ってもらってますし」
「じゃあお言葉に甘えて……もう一つ聞いてもいいかな」
「なんですか?」
「昔、大火傷を負って後遺症に苦しんでいる人がいるの。何かいい薬があったら教えてもらいたいんだけど……」
「ええ、もちろんです」
伊作は医学書に載っていないような薬にも詳しかった。彼が言うには、医学書はもちろんだが植物について勉強するのもいいんだとか。私の当初の目的とは少しズレてしまったけど、ここで彼と話せてよかったと思う。
私の処遇が決まったと伝えに来てくれたのは、三年生の数馬だった。このまま救護所の手伝いをしていいということだ。そんなに緩くていいのかなとも思ったけど、「まあ忍たまだし」で納得できるのがこの世界のすごいところだと思う。
タソガレドキ軍は明日にでも到着するんじゃないかということだった。そのときは知り合いを探して撤退してもらうように伝えてみると、保健委員のみんなや先生たちには話しておいた。上手くいくかどうかはわからないし、そもそも雑渡を探し出せるかという不安もあるけど、せっかくここまで来たんだから何もせずに帰るなんてできなかった。
「どうしてお姉さんはタソガレドキで働いているんですか?」
乱太郎が言うと、伏木蔵もうんうんと頷いた。
「タソガレドキには悪い殿様がいるんですよね?」
「行く当てがないところを拾ってもらったの。殿様とは会ったことないけど、他のみんなは私に親切にしてくれたよ」
「タソガレドキにもいい人はいるんですね……」
「伏木蔵くんが想像するいい人とはちょっと違うかもしれないけど」
何せ雑渡は身長も高いし、パッと見ただけだと怖いだろう。子供たちはびっくりしてしまうかもしれない。話してみたらすごく優しくて、部下たちに慕われているのがわかる。ちょっといじわるなところもあるけど、それでも度が過ぎたようなことは一度もされたことがない。
……だから、タソガレドキとオーマガトキがグルになって村から金品を巻き上げているという話を聞いたときはショックだった。町が賑わっていたのはオーマガトキ領の村の犠牲の上でのことだった。最初は信じられなかったけど、どうやら本当のことらしい。タソガレドキ軍がここを攻めてくるのは、戦のカラクリに園田村が気づいてしまったからだそうだ。
夢中で作業をしていたら夜も更けてきた。下級生は交代で眠るそうだ。私も寝るようにと勧められたけど、ここでうなされては子供たちを起こしてしまうかもしれない。やんわりと断ると、伊作は困ったような顔をした。
「ですが、眠らないわけにはいかないでしょう」
「……ちょっと夢見が悪くて。うなされちゃうんです」
「うなされていたらぼくが起こしてあげますよ」
「優しいね」
「あなたのほうがよっぽどだと思います」
「そんなこと……」
伊作から見たら、戦を止めに来た優しい人に見えるのかもしれない。でも違う。私はタソガレドキのみんなに万一のことがあったらと思って来ただけなのだ。それに罪滅ぼしというのもある。
「私、ちょっと前にオーマガトキの兵士を助けてしまったの。タソガレドキの敵だってわかってたのに」
伊作は軽く頷いて、私の話の続きを促してくれた。
「その人が戦場で私の大事な人たちを傷つけたらと思うと怖い。助けなきゃよかったかもって思った。でも、今また同じことがあっても見過ごせないんだと思う」
なんで伊作にこんな話をしているのか、自分でもよくわからなかった。もしかしたら自分のしたことを肯定してほしかったのかもしれない。タソガレドキのみんなには話せないことだから、誰かに聞いてほしかった。このところは罪悪感も落ち着いていたのに、話したせいでじわりと目元が熱くなってくる。
「みんなに裏切り者だって言われるのが怖くて、誰にも話せなかった。……ごめん、こんな話されたって困るよね」
「ぼくが同じ立場でも、あなたと同じことをしたと思います」
「ぼくもです!」
「わたし……も」
伊作だけでなく、伏木蔵や乱太郎も同意してくれてた。こぼれそうになった涙を袖で拭う。
「ふふ、乱太郎はもう眠たそうだね。左近と数馬を起こして交代しようか」
「はい……」
乱太郎がふらふらと立ち上がる。しかし何か違和感があったようで、立ち止まってしまった。
異変にいち早く気づいた伊作が包帯を投げつける。
「何者だ!」
「くせ者だよ」
(あ……)
なぜかそこには雑渡がいた。伊作に続き、伏木蔵も薬草や包帯を手当たり次第に投げつけている。雑渡はちらりと私のほうを見たあと、伊作に近づいていった。
「また会ったね」
「あなたは昨日の……!」
「とりあえず物を投げる、というのをやめさせてもらえないか」
乱太郎と伏木蔵は伊作の元へ走って抱きついた。
どうして雑渡がここにいるのだろう。タソガレドキ軍が到着するのは明日になるということだったけど、もう来てしまったのだろうか。
私は動けなかった。さっきの話を雑渡に聞かれてしまったかもしれない。今も雑渡は私なんか見えてないみたいに伊作と話しているから、もう裏切り者だと認定されてしまったのかも……。
雑渡は一カ月前にも伊作と会っているのだと言った。前の戦で怪我した雑渡を治療したのは伊作だったそうだ。今回は戦いに来たのではないらしい。
「いつか、あのときの恩を返さねばと思っていた。タソガレドキ忍者隊は園田村との戦いには手を出さない。これが私の君への礼だ……。それと、」
ここでようやく雑渡は私と目を合わせた。
「うちの子が世話になったみたいだね。重ねて礼を言うよ」
あ、と思ったときにはもう私は雑渡に抱きかかえられていた。伊作が追ってきている。でも明らかに雑渡のほうが速い。
「待って! これはきっと、あなたが一番必要としていた物のはず!」
伊作が私に向かって何か投げてくる。雑渡が一瞬足を止めてくれたおかげか、なんとか受け取ることができた。さっき伊作と一緒に作った火傷に効く薬だ。誰に使いたかったのか伊作は察してくれたのだろう。
伊作のほかにも追手はいたけれど、雑渡は難なく潜り抜けていた。雑渡に抱えられているとふわふわと空を飛んでいるような心地になる。
「初恋の人には会えた?」
「……その話、信じたんですか?」
何を言われるのかと身構えていたけど、雑渡が軽口のように言うから私も普通に話すことができた。
「尊奈門が私にくだらない嘘をつくわけないし、何か勘違いしているんだろうとは思ったよ。でもあそこに君がいるのを見て、わからなくなった」
「……私はこれからどうなるんですか?」
「どうなるって?」
「……処刑されたりとか」
「処刑されるかもしれないのに、君はおとなしく私に抱えられてるの?」
「……」
「そんなことしないから安心して」
「でも、さっきの話聞いてたんじゃ……」
「聞いてたけど、別に私たちを裏切ったとは思わないし……君のそういうところは嫌いじゃないよ」
ハッとして雑渡を見上げる。彼はまっすぐ前を向いていた。
「オーマガトキとの戦では怪我をしないようにって部下には言っておくよ。そうしないと泣いちゃう子がいるってね」
「……できれば、他のところでも怪我をしないでもらえると嬉しいです」
ははっと雑渡は笑った。
「それで居ても立ってもいられなくてこんなところまで来ちゃったの?」
「それもあるんですけど、違うんです。……信じてもらえないかもしれないですけど、園田村での戦いで、タソガレドキは……負けるかもしれない、です」
「……詳しく聞かせてもらってもいい?」
私はこの時代でのことが物語として未来に伝わっていると雑渡に話した。最初はわからなかったけど、土井先生や忍術学園の話を聞いて気づいたことも。さすがにフィクションだとは言えなかったので、その辺りには触れていない。
「では、この戦の結末を君は知っていると?」
「いえ……。実は内容を詳しくは知らないんです。でも、物語は忍術学園が主体となって描かれていました。敵対しているドクタケ城なんかは悪役だったので……」
「なるほど。我々は悪役というわけか。それとも勝ったほうが正義として伝承されていくのかな」
「わかりません……。雑渡さんの力でタソガレドキ軍を撤退させることはできませんか?」
「さっきも言った通り、タソガレドキ忍軍はこの戦には参加しない。私に権限があるのはここまでだよ」
「……ですよね。でも忍者隊のみなさんが参加しないのはよかったです」
「まあ、園田村を落とすのは難しいだろう。先鋒の鉄砲隊にもじきに退却命令が下るはずだ」
「そうなんですか?」
「実はそれどころではないんだよ」
雑渡は詳しい話は教えてくれなかった。だけど、話してみてよかったと思う。信じてもらえるか不安だったけど、私の言ったことは一応参考にしてくれるみたいだ。
「そろそろ寝たら? うなされてたら起こしてあげるよ?」
「……もう。伊作くんたちとの会話、全部聞いてたんですか?」
「さあ」
「落とさないでくださいね」
冗談のつもりで言ったのに、雑渡が抱く力をぎゅっと強くするからびっくりしてしまった。
「あの、冗談……」
「何があっても落としたりしないから、安心しておやすみ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……おやすみなさい」
なんか心臓がうるさい。
――今は組頭を好いているから、内密にしておきたいということか?
なぜか今さら尊奈門に言われたことを思い出した。