トリップしたけど昔アニメをちょっと見ただけでタソガレドキを知らない話15

 里芋をやわらかく煮たものを潰して丸め、砂糖と醤油のタレと絡めて焼いたものを海苔で巻いた。我ながらおいしそうだと思う。
「どう? おいしい?」
「……うまい」
 なぜ悔しそうな顔をする。
 縁側に座った尊奈門は、もくもくと団子を食べていた。
「明日ね~、私も忍術学園に連れて行ってもらえることになったよ」
「組頭に聞いた」
「怒ってる……わけじゃないよね?」
「怒ってない」
 私も尊奈門の隣に座って団子を食べる。イモといえば里芋なことには驚いたけど、慣れてしまえば案外アリだ。
「招待状は四人までなんだって」
「そのくらいどうとでもなる」
「雑渡さんも同じようなこと言ってた」
「……組頭が、おまえを好いていると噂になっている」
 飲んでいたお茶を吹き出しそうになってしまった。今日は一段と尊奈門がムスッとしているなあと思ったら、そういうことか。でもそれはあり得ない話だ。もしかしたら薬を塗るために私の部屋に出入りしているところを誰かに見られたのかもしれないけど、やましいことは何もしていない。放っておけば噂なんてすぐに収まるだろう。
「そんなことないから心配しなくていいよ」
「心配などしていない」
「あ、そう……」
「何故ないと言い切れるのだ」
「いやあ……だって、ないよね?」
「……」
「噂のこと、雑渡さんは知らないの?」
 尊奈門は首を振って「組頭が気づかないわけないだろう」と言う。知っていて放置しているのなら、気にしなくていいということじゃないのか。そう言っても、尊奈門は納得していなさそうだった。
「じゃあ尊奈門さんは何か私に改めてほしいところがあるってこと?」
 これは意地悪な質問だったかもしれない。尊奈門はきっと、噂を聞いてじっとしていられなくなったのだろう。私にどうしてほしいというわけではなさそうだ。
「……おまえにその気があるのか確認しておきたい」
「……は?」
 今度は団子を落としそうになってしまった。なんでそんな話にまでなっているんだ。噂がどの程度のものなのか私は全く知らないわけだけど、これは思った以上に広まっているのかもしれない。でも、噂は噂だ。何もなければいずれ消える。私がここでハッキリ否定しておけば、雑渡の迷惑にもならないはずだ。
「ないよ」
 これが「好きか?」という質問だったらもっと動揺していたかもしれない。嘘をつくことになるからだ。私はこの気持ちをどうするつもりもない。これは本心だから、真っ直ぐ尊奈門の目を見ながら言える。
「そうか」
「組頭を取られるって心配しちゃった?」
「全然違う。我々忍者隊……それから殿も、組頭がいつまで経っても身を固めようとしないことを憂いているのだ」
(あ、そっちなんだ)
 別に結婚しない自由があってもいいじゃない、と言えるような時代ではなかったのだった。雑渡は女中たちの間でも人気だし、結婚しようと思えばいつでもできそうな気がする。それでもしないというのは、やはり雑渡にその気がないからだと思うのだが……。
「組頭は私の父を庇って大火傷を負われた。そのせいで決まっていた縁談まで駄目になってしまった……」
「え……」
 そんな理由があったなんて。確かに気になってはいたけど、さすがに聞いていいようなことじゃないと思って触れずにいたことだ。というか、私が聞いてしまってもよかったのかという疑問はある。
 尊奈門は唇を噛みしめていた。責任を感じているのかもしれない。尊奈門も尊奈門のお父さんも悪くないと思うけど、もし自分が尊奈門の立場だったら、雑渡に結婚してほしいと思う気持ちもわかる気がする。
「……お団子、もう一個食べる?」
「食べる」
 尊奈門は大きく口を開けて団子にかじりついた。ごめんね、気の利いたことが言えなくて。
「……」
「……私は雑渡さん好きだよ?」
 馬鹿か。大馬鹿か。ついさっき「その気はない」と言ったばかりの口で何を言っているのか。いくら慰めの言葉が思いつかなかったからって、これはない。
 尊奈門もさすがに面食らったようで、ゴホゴホと咳き込んでいる。お茶を渡したけどそれどころではないようで、何度か背中をさすってあげるとようやく落ち着いてきたみたいだ。
 尊奈門は私をじろりと睨んだ。
「……おまえ馬鹿なのか?」
「私もそう思う」
「まあ、おまえの気持ちは最初から知っていたけどな」
 尊奈門は得意気に言った。土井先生の話をしたときからこの誤解は続いていたが、今となってはそれが誤解だったかどうかも怪しい。あのときはもう雑渡のことが好きだったのかもしれないと考えるくらいには、自分に自信がなくなっていた。
「このお団子は口止め料です」
「隠す必要あるのか?」
「そりゃあるでしょ! 尊奈門さんは私と雑渡さんが一緒になってもいいと思ってるの?」
「組頭次第だ」
「え、意外……」
 尊奈門は何がなんでも反対してくると思っていたのに。さっきのは忠告じゃなかったんだろうか。この言い方だと、むしろ背中を押されているようにも感じる。でも、期待するのは嫌だ。行く当てのない身だからこそ、波風立てずに過ごしていたい。ここで誰かと恋愛するような覚悟も私にはなかった。
 追加の団子を食べ終えた尊奈門が立ち上がる。
「……ごちそうさま」
「お粗末さまです」
 尊奈門が行ってしまったあとも、私は縁側にじっと座っていた。なんで好きとか言っちゃったんだろう。意識しないようにしたいのに、明日どんな顔をしていればいいのかわからない。