トリップしたけど昔アニメをちょっと見ただけでタソガレドキを知らない話18
私がきちんと受け答えしていればこんなことにはならなかったんだろうか。まさか文化祭で土井先生と二人きりになるなんて思ってもみなかった。尊奈門に余計なことさえ言わなければ「わー本物の土井先生だ」くらいにしか思わなかっただろうに。尊奈門も尊奈門だ。私の気持ちを知っているくせにどうして助けてくれなかったんだろう。
「あなたはどうしてタソガレドキ城に?」
「えっ、」
このとき私の頭にある可能性が浮かび上がった。
――もしかして、くせ者判定……?
さっきとは別の意味で緊張してきた。そうだ、忍術学園の先生なんだからタソガレドキを警戒するのは当然のこと。しかも忍者でもなんでもない私みたいなのが招待状の人数を無視してまでついてきているのだから、疑問に思うのは何もおかしなことではない。私の体調を心配する振りをして、探りを入れようとしていたのだ。
「……身寄りがないところを雑渡さんに拾っていただいたんです」
もはや忘れかけていた設定だけど、こんなところで役に立つ日がくるとは。それでもちょっと無理があるかなと思っていたから、意外とすんなり受け入れてくれたことにホッとした。もしかして、きり丸と重ねてる? あまり詳しくは覚えてないけど、確か土井先生もきり丸も身内がいなかったような気がするし、この時代では珍しくない話なのかもしれない。
「尊奈門くんたちと仲がいいみたいですね」
「実は最初すごーく疑われていたので、何をするにしても忍者隊の皆さんが私の監視についていたんです」
「苦労なさったんですね」
「いえ……みなさん親切でしたし、今は楽しいです」
「……そうですか」
土井先生は何か考えるような仕草をした。変なことは言ってないつもりだけど、どこで怪しまれるかわからないから私はずっと緊張しっぱなしだった。
「疲れているんでしょう。休んだらよくなると思いますよ」
新野先生がにこりと笑う。何もないことは自分が一番よくわかっていたから当然の結果なんだけど、わざわざついて来てもらった身としては少し気まずかった。新野先生はこれから席を外すそうだ。ゆっくり休んでいっていいと言ってくれたのはありがたいけど……
「実は確認したいことがありまして」
どうして土井先生まで残るんだ。確認したいことってなに。これじゃ休めるものも休めない。
「……なんでしょうか」
「あなたを忍術学園預かりにできないかと、雑渡さんから相談があったんです」
「え……え? どうしてですか?」
全く予想もしていなかった方向の話で頭が真っ白になる。私が今まで休みを取っていなかったから、今日は気分転換に文化祭に連れてきてくれたんじゃなかったのか。雑渡は最初から私をここに置いていくつもりで来たんだろうか。そんなの聞いてない。
「やっぱりあなたは知らなかったみたいですね」
うん、うん、と私は勢いよく頷いた。上手く言葉がでてこない。もう泣きそうだ。
「ああ、まだ決定したわけではないですから。雑渡さんと一度話してみてください」
「……あの、」
「はい」
「雑渡さんが、どうして、そんなことを言ったのかわかりますか?」
「タソガレドキは戦の多い城だからと言っていました」
確かに言いそうではあるなと思った。だけどそんなの今さらだし、何より私に相談もせず勝手に話を進めていたことがショックだ。……いや、悲しさよりも怒りが沸いてきた。雑渡たちが私を置いて帰る前にどうにかして話をしなければ。
「……雑渡さんを探しに行きます」
「あ、ちょっと!」
急に立ち上がったせいか、頭がクラッとした。倒れないようにしゃがみ込もうとしたところを土井先生が支えてくれる。そのとき、勢いよく医務室の戸が開いた。
「おや、お邪魔だったかな」
(なんでこんなタイミングで……)
見ようによっては抱き合っているように見えたかもしれない。そんな私たちの姿を見た雑渡は、くるりと背を向けて医務室から去ろうとする。とっさに「待って」と叫べば、彼は振り向きはしないものの足を止めてくれた。
「大丈夫ですよ」
土井先生が私から離れてにこりと笑う。
「……?」
「雑渡さん、最初から私たちのことずーっと監視してましたから」
「え……」
雑渡が少しうつむいたのがわかった。
「ではお先に」
土井先生は私にウインクして医務室を出て行った。
ゆっくりと雑渡が振り返り、これまたゆっくりと部屋の中へ入ってきて腰を下ろす。
何か言ってくれるのを待っていたけど、雑渡は黙ったままだ。
「ちょっと粉もんさん」
「……怒ってる?」
「ものすごく」
「えっと……ごめんね?」
「イヤです」
私の反応が意外だったのか、雑渡はぱちりと目を見開いた。
「……私がタソガレドキにいたら迷惑ですか?」
「そんなことないよ。ただ、ここにいるほうが君にはいいと思ったから」
「イヤです……勝手に決めないで」
もし本当に迷惑だと思われているなら仕方ないと思った。だけど嘘でも「違う」と言われたら、黙って従うことはできない。
いよいよ泣いてしまいそうだったので、私は雑渡を置いて医務室を出た。もう少し話し合ったほうがよかったのかもしれないけど、泣き落としのようなことはしたくなかったのだ。
足元の影を見ると後ろから大男がちょこちょことついてきているのがわかる。
「田楽豆腐食べたいです」
「あ、ウン」
「粉もんさんの奢りです」
「ハイ……」
「甘いものも食べたいし、座ってお茶も飲みたいし、あと城のみんなにお土産も買いたいです。粉もんさんのお金で」
「わかった。わかったから、一つずつゆっくり回ろうね」
「昆奈門さん」
どさくさに紛れて一回だけ名前をちゃんと呼んでみた。雑渡が気づいたかどうかはわからない。私なりの「許します」という意味だったけど、思った以上に私へのダメージになる。名前を呼んだだけでこんなにドキドキするなんて、なんだか子供みたいだ。
「……今日は私のこと連れて帰ってくれますか?」
「うん。一緒に帰ろう」