マッドΨエンティストを攻略せよ!04

 ハッと目を開くと見慣れない天井、耳に入ったのはどこか聞き覚えのある軽快な音楽。これ、マリオのスターの音だ。
 起き上がると、空助くんと楠雄くんがマリオカートで遊んでいるのが目に入った。……いや、これは遊ぶというより勝負なのかもしれない。
 無敵になった楠雄くんのヨッシーが空助くんのピーチを吹っ飛ばす。さっきまで一位だった空助くんの順位がみるみる下がって五位になってしまった。その隙に楠雄くんはゴール。空助くんは三位まで巻き返したものの、悔しそうにうなだれている。
「あー、途中まではいい線いってたんだけどな……あ、起きた?」
 そうだった。確か空助くんが頭を撫でてくれて……その後の記憶がない。もしかして夢でも見てた? 空助くんがそんなことしてくれるわけないし。
「夢じゃないよ。君ってば僕が撫でただけで白目向いて気絶しちゃうんだもん。これじゃ先が思いやられるね」
 私、口に出してたっけ。それより大変なのは、さっきのが現実だったってことだ。白目って最悪じゃん。っていうか、なんで撫でてくれたの!? 空助くん別に私のこと好きでもなんでもないよね? ……やめよう、悲しくなってきた。
「ねえ、もう一回やって!」
「でも楠雄が見てるからなあ」
「楠雄くん目、瞑ってて!」
 楠雄くんは黙って立ち上がった。部屋から出て行こうとしているみたいだ。別に追い出すつもりじゃなかったのに。
「待って楠雄くん! 三人で対戦しようよ!」
「いいね。楠雄が勝ったらシュークリームも追加するけど、どう?」
 空助くんがそう言うと、楠雄くんは一瞬で戻ってきてコントローラーを握った。私がクッパを選んでゲームスタートだ。
(ふふ、これで楠雄くんを妨害して空助くんを勝たせたら完璧じゃない?)
 と、思っていたのに……。
「あー! 空助くんなんで私を攻撃するの!」
「えー。だって真剣勝負でしょ?」
 楠雄くんもコクコクと頷いている。楠雄くんはもうシュークリームのことしか頭にないようで、周囲を大きく引き離して一位を走っている。これはもう追いつけそうにない。こうなったら空助くんに仕返ししてやる!
「あっ!」
 空助くんを狙って甲羅を使ったのに、空助くんは他のキャラを身代わりにして避けてしまった。
「あーあ。君は僕の味方だと思ったのになあ」
「真剣勝負だから」
「ハハッ。そうだったね~」
 結局、楠雄くんがそのまま一位。次に空助くん、NPCを挟んで私。その後も何度か対戦したけど、三人の中の順位が変わることはなかった。
「あー。やっぱり楠雄には勝てないな~」
 コントローラーを置いた空助くんのことを、楠雄くんが何か言いたそうな顔でジッと見ている。だけど空助くんは目を合わせようともしない。多分シュークリームだよ! 早く持って来てあげて!
「ああもうわかったってば。ケーキとシュークリームね。取りに行くから楠雄も来てよ」
 空助くんと楠雄くんが部屋を出て行く。
「あ、君はここで待っててね」
 さすがに私に見せびらかしながら食べるわけじゃないようだ。ここはおとなしく待っていよう。……でもいいなあ、ケーキ。学校帰りにケーキ屋さんがあるけど、今はちょうど桃の季節みたいで大きなポスターが貼られていたのだ。すごくおいしそうだった。だけどこの前のコーヒーゼリーでお小遣いは結構使ってしまったし、もしかしたら空助くんとどこかデートに行けるかもしれないから余力は残しておきたい。……来週、別れたら買いに行こうかな。
「やあお待たせ」
 空助くんたちが戻ってきた。食べるにしてはやけに早いなと思ったら、楠雄くんが持っている皿にはショートケーキとシュークリームが乗っている。そして空助くんが持っているお盆には、私がポスターで見た桃を丸ごと一個使ったというケーキが二つ。
「え、私の分もあるの?」
「うん。楠雄に感謝してね」
 空助くん、楠雄くんに三つもケーキをあげるつもりだったんだ。それで哀れに思った楠雄くんが私たちにもケーキを恵んでくれたんだろう。
「ありがとう楠雄くん!」
 楠雄くんはチラッと空助くんを見て、それから席に着いた。モニュモニュとケーキを食べる楠雄くんはとても幸せそうだ。
 私もお言葉に甘えてケーキをいただく。ぴかぴかの桃は見た目だけじゃなくて味もおいしい。中に入っているクリームもふわっとしていて、いくらでも食べられそうだった。
(……あれ?)
 ケーキの飾りにお店の名前が書かれているけれど、楠雄くんが食べているものと桃のケーキの店名が違うものになっている。桃のケーキは確かに私が見た店のものみたいだけど、ショートケーキは違うところで買ったのだろうか。
「空助くん、このケーキどこで買ったの?」
「おばあちゃんが貰ったやつだから知らないよ。そんなにおいしかった?」
「うん。すごくおいしい」
「そっか。よかったね」
「本当にありがとう」
「だってよ楠雄」
 楠雄くんは空助くんを無視してケーキを食べ進めていた。私も続きを食べていたところ、急に左手の上に二つ折りにされた紙が飛んできた。
「あ、ちょっと楠雄!」
 空助くんがなぜか慌てている。
 紙を広げてみると、レシートだった。そこには桃のケーキ二つ分の金額だけが記されている。
「これ、貰いものじゃなかったの?」
「あー……偶然レシートが入ってたのかな?」
「もしかして私が来るから空助くんが買ってくれてたの?」
「すごい自信だね。……まあそういうことにしといていいよ」
「普通に言ってくれたらいいのに! ありがとう空助くん」
「どういたしまして。にしてもこのケーキおいしいね~」
「うん。……あ、でも見て。このレシート時間ずれてる。五分前に買ったことになってるよ」
「あはは。そんなことあるんだー」
 記念にこのレシートはとっておこう。そう思ってスマホケースの中に挟もうとしたのに、空助くんに取られてしまった。