マッドΨエンティストを攻略せよ!05

 交際三日目。今日は会えないことが確定しているので朝からやる気が出ない。付き合ってるからって毎日会うわけじゃないのはわかるけど、私には一週間しかないのだから、普通に一日損したような気分だ。でも仕方ない。出てくれるかどうかはわからないけど、お風呂に入ったら電話してみよう。

 今日も授業が終わったらいつの間にか楠雄くんはいなくなっていた。私が一人で帰ろうとしていたら、突如視界がまばゆい光に包まれる。
「ねえ、よかったら一緒に帰らない……?」
 おっふ……照橋さん。近くで見たら超絶美少女。視界だけじゃなくて頭も真っ白になりそうだ。でも照橋さんがどうして。周りの人たちが全員こっちを見ていてなんだかすごく居心地が悪い。
 もちろん照橋さんの誘いを断るなんて失礼なことをするわけもなく、私たちは二人で帰ることになった。もしかして私が一人だったから気を使ってくれたのだろうか。なんて優しいんだ。かわいいだけじゃなくて優しいなんて非の打ち所がない。人類に興味がないという空助くんでも、照橋さんみたいな人だったら好きになってしまいそうだ。照橋さんは人類なんてもんじゃない。いや人類だけど、そんなものはとっくに通り越した存在なのだ。
「照橋さんと帰れるなんて嬉しいな」
「えー、私もだよ。前から話したいと思ってたんだ。……ところで、斉木君とは仲いいの?」
「え、楠雄くん?」
「うん。ほら……下の名前で呼んでるし」
「あ……まあ、幼稚園が一緒だったから……」
「へ~、そうなんだー……」
 ここで私はハッとした。何か誤解させているかもしれない。男子を下の名前で呼ぶって相当仲がいいと思われるのでは……。他の男子は苗字呼びしてるし。
「楠雄くんのお兄ちゃんとも知り合いだからだよ!」
「斉木君のお兄さん?」
「うん。すごくかっこよくて、頭もいいし優しいの」
「……もしかして好き?」
「え……! あ、うん。そうなの……わかりやすかったかな」
 照橋さんの表情がパッと明るくなった。うっ……本気で眩しい。やっぱり空助くんには会わせられない。照橋さんのことを好きになってしまったなんて本人から言われたら、心が死んでしまう。……でも空助くんと照橋さんってよく考えたらお似合いかも。いやいや、照橋さんが空助くんを好きになるとは限らないし……。
「照橋さんは好きな人いるの?」
「え! 私!? いや私は……えっと、」
 この反応はいるってことだ。照橋さんが好きになる人ってどんな人なんだろう。とりあえず空助くんではなさそうだから安心だけど、単純に気になる。
「同じ学校の人? 告白とかしないの?」
「えええ告白なんて!」
 照橋さんは真っ赤になっていた。かわいすぎる。私だったらもうこの反応だけで好きになってしまいそうだ。だけどいきなり深く聞きすぎるのはよくなかったかもしれない。私が空助くんを好きなのは別にバレたっていいけど、照橋さんの好きな人がPK学園にいるのだとしたら言いづらいのはわかるし……。
「……じゃあ私はこっちだから、また今度話聞かせてー!」
「あ、うん。バイバイ」

 照橋さんと別れて家に帰り、自分の部屋に入った私はすぐにスマホを確認した。何のメッセージも来ていない。空助くんは用事があると言っていたから、連絡するのは後にしよう。というか、そろそろ楠雄くんに勝つ方法を考えなければ。なんか好きになってもらうのは無理そうな気がするし。だけど勝つといったって何の勝負をするか、まずはそこからなのだ。
 ジャンケンとかゲームとか、あとは鉄棒で連続で回った回数とか、小さいころはいろんな勝負をしていた気がする。今も同じで何の勝負でもいいのかな。空助くんはイギリスに留学していたくらいだから、英語なら空助くんのほうが上な気もするけど……。
 ……そう考えたら空助くんが勝ってるとこってたくさんある気がしてきた。空助くんは飛び級で大学卒業までしてるって話だし、かっこいいし、優しいし、身長も楠雄くんより高いし生まれてきたのも空助くんのほうが先だし。これもう空助くんの勝ちじゃない? ってことはそれを教えたら別れなくていいんじゃない?
 なんかそんなに深く考えなくてもよかったのかも。あとはご飯の時間まで勉強して、その後は漫画でも読もうかな。

「君って何もわかってないんだね」
 お風呂から上がって、ドキドキしながら空助くんに電話した。出てくれてすごく嬉しかった。それで私は「空助くんが楠雄くんに勝っていると思うところ」を伝えたのだが、思っていた反応とは全然違った。
「楠雄がやろうと思えば動物とだって意思疎通できるし、外見を君の好みに変えることだってできる。身長を三メートルにするのだって余裕だよ」
「いや、さすがにそれは……」
「まず楠雄が勝負してくれなきゃ意味ないしね」
「……でも私は楠雄くんじゃなくて空助くんのことが好きだよ」
「それが何?」
 好きって言ってもこの反応。何回やっても慣れそうにない。でも、こんなことでくじけてなんていられなかった。
「えっと、どっちがモテるか……みたいな」
「楠雄がその気になれば、君はすぐ楠雄のことを好きになるよ」
 さすがにこれは無視できない。私は空助くんが好きだって言ってるのに。
「ならないよ。なんでそんなこと言うの?」
「だって事実だしね」
「わかった! 私が楠雄くんのこと好きにならないか不安ってことでしょ!」
「いや違うけど」
 空助くんが電話の向こうでため息をついたのが聞こえた。ええ……違うんだ。ちょっと自信あったのになあ。
「まあ楠雄が本気で君をどうこうしようとは思わないだろうから、楠雄に感謝することだね」
 しかもなぜか楠雄くんに感謝しなきゃいけないことになっている。
「じゃあ何の勝負だったら空助くんは納得してくれるの?」
「そっか、それを最初に言えばよかったね。実は楠雄との勝負はずっと前から続いてるんだ。楠雄の頭についてるピンクの丸いやつが二つあるでしょ? それを楠雄の頭から外すことができたら僕の勝ちなんだ」
「え……そうだったの?」
「うん。まあ、一種のゲームみたいなものかな。他のゲームで勝てるならそれはそれで嬉しいけど」
「じゃあ私が楠雄くんを羽交い絞めにして空助くんがその隙に取るっていうのはどうかな!」
「びっくりするぐらいアグレッシブだね。面白そうだからそれでいいよ。期待はしてないけど」
「本当? じゃあ明日またお邪魔するね!」
 話は終わったかのように思えた。……が、奇跡的にまだ通話は続いている。なんとなく別の話題に移って、そのまま話し込んでしまったのだ。だけどそろそろ……
(眠い……)
 でも絶対に自分からは切りたくない。空助くんが寝ると言ったら潔く切るつもりではいる。空助くんはいつももっと遅いのかな。少しなら夜更かししても大丈夫だとは思うけど……。
 もうすぐ日付が変わってしまいそうだ。時計を見ていたら目がシパシパしてきた。
「あ、もしかして眠い?」
「えっ……ああ、ちょっとだけ……空助くんはまだ寝ないの?」
「僕は十五分くらい寝たら大丈夫だからね。まだまだ平気だよ」
「え、いつもそうなの!?」
「うん。でも君が眠いなら仕方ないね」
「……待って、ちゃんと寝たほうがいいよ」
 電話がどうこうというより、空助くんの身体が心配だ。このままじゃ空助くんが早死にしちゃう。その前に病気になっちゃうかもしれない。
「うーん……。でも今さら眠れるかな」
「私も寝るから寝て!」
「時間ももったいないしなー」
「私と話してるほうがもったいないよ!」
「それ自分で言う? ……まあいいや。今日は久しぶりにゆっくり寝てみようかな」
「うん。ありがとう」
「お礼を言われるようなことじゃないけどね。じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」