マッドΨエンティストを攻略せよ!06

「おう相棒、ラーメン食いに行こーぜ」
 放課後、燃堂くんの誘いに楠雄くんがコクリと頷く。すると海藤くんや窪谷須くんも集まってきて、四人で教室を出て行ってしまった。これはまずい。非常にまずい。だって今日は空助くんと協力して楠雄くんの頭のピンクのやつを抜く予定だったのだ。ラーメンを食べてすぐ帰ってきてくれたらいいけど、どこか遊びに行ってしまうかもしれない。だからって楠雄くんが友達と遊んでいるところを邪魔するわけにはいかないし……。とりあえず空助くんに電話してみよう。
「どうしよう空助くん! 楠雄くんが友達と遊びに行っちゃった!」
「あー、やっぱり逃げられたか。さすがに呼び出すわけにもいかないし、困ったなあ」
「ごめんね忙しいのに」
 聞けば空助くんが住んでいるのは、ここから車で半日もかかる場所らしい。どうやって行き来しているのか聞いたらはぐらかされてしまったけど、きっとお金も時間もすごくかかっている。
「まあ楠雄も僕がいるとなかなか帰ってきてくれないからね。なんなら君が取ってきてくれてもいいよ、楠雄の頭のやつ」
「え、それでもいいの?」
「うん。どうせ無理だろうけど」
「でもそれって学校にいるあいだはずっとチャンスってことでしょ? なんとかなるかも!」
「あと一日しかないけどね」
「……え?」
「今日は木曜日でしょ?」
「あっ!」
 そうだ、今日は木曜……。つまり学校で楠雄くんのピンを奪うチャンスは明日しかない。最初からもっと空助くんと話し合っていたらこんなことにはならなかったのに!
「今日はどうしよっか。僕たちもどこか行く?」
「え……」
「ああ、行きたくないなら別に「行きます!」
「そう? じゃあ迎えに行くよ。今、学校だよね」
(うわーー!)
 電話を切った私は急いでトイレに向かった。鏡を見てヘンなところがないか入念にチェックする。どうしようドキドキしてきた。これってデートだよね……?
「あれ、どうしたの? もしかして具合悪い?」
 わたわたしていたところに声を掛けてくれたのは夢原さんだった。待って。さっきの私、すごく挙動不審だったかもしれない。
「ああ違うの! 全然大丈夫だから!」
「えー、でも顔すっごく赤いよ?」
「いや、これは……」
「もしかして恋の話?」
 夢原さんはにやりと笑った。

「えー好きな人とデート!? 誰? 同じ学校? クラスは?」
「学校の人じゃないよ。歳も二つ上で……」
「えー年上!? 写真とかある? 見たい見たーい!」
「ごめん写真もない……。あ、でも今から迎えに来てくれるって」
「きゃー! ねえ絶対邪魔しないからこっそり見ててもいい?」
「うん。それなら……」
「ねえねえどうやって知り合ったの? もうやった? やっちゃった?」
「や……そんなのまだだよ! いやまだっていうか全然脈ナシだし!」
「えー。でもわざわざ迎えに来てくれるんでしょ?」
「そうなんだけど……」
 話していたらスマホが鳴った。空助くんが到着したみたいだ。やけに早かった気もするけど、急いでくれたのかな。
 空助くんは正門で待ってくれているみたいだから、私も急いで向かうことにした。夢原さんは教室の窓から見ているらしい。なんか恥ずかしいけど気にしないようにしよう。

 正門にもたれかかった空助くんは、それはもうかっこよくて絵になるくらいだった。みんなが空助くんのことをチラチラ見ている。……あ、女の子が話しかけた! でもここからじゃ何を話してるか聞こえない。うわーめちゃくちゃ気になる!
 別に何かあるわけじゃないとは思うけど、私は走った。女の子がお辞儀をして、空助くんが手を振っている。すごい神対応。あんなことしたらみんな空助くんのこと好きになっちゃうって!
「ごめんお待たせ!」
「全然。僕もさっき着いたとこだから」
「さっき何か話しかけられてた?」
「ああ、誰か待ってるのかって聞かれただけだよ。それよりどこか行きたい場所はある?」
「ごめんまだ引っ越してきたばっかりでこの辺何があるのかわからなくて……。あ、でも空助くんもわからないよね」
「それなら大丈夫だよ。特にリクエストないなら僕が行きたいとこでいい?」
 空助くん、なんて頼もしいんだろう。それに空助くんの行きたいとこに行けるなんてラッキー。変に喫茶店とか言わなくてよかった~。
 空助くんは歩きながら道案内をしてくれた。楠雄くんが学校帰りによく寄っているコンビニとか、楠雄くんがいつもコーヒーゼリーを買うスーパーの場所とか。もしかしてこれは楠雄くんを待ち伏せしてピンを取れって言ってる?
「あ、ここだよ。楠雄行きつけのラーメン屋」
「そうなんだ……」
 空助くんの行きたい場所というのはこのラーメン屋だったらしい。楠雄くんがよく行くから気になっていたそうだ。でも入って大丈夫だろうか。楠雄くんたちも今日はラーメンに行くみたいだったし、中で鉢合わせしちゃうかもしれない。さすがにそれは気まずいのでは。店の中で勝負を仕掛けるわけにもいかないし……。
「あれ? ラーメン嫌だった?」
「嫌じゃない! ラーメン大好き!」
 ごめんね楠雄くん。空助くんが行きたいって言うなら私はそれに従います……!

「あーっ!」
 引き戸を開けてすぐに例の四人組が目に入った。やっぱり居たんだ。そしてこちらを見て真っ先に声を上げたのは海藤くん。海藤くんの声を聞いて、燃堂くんや窪谷須くんが私たちのほうを見る。楠雄くんだけは見向きもせずラーメンを啜っていた。
「お? なんだ?」
「お前忘れたのかよ! イギリスで鬼ごっこしただろ!」
「ああ、相棒のニーチャンか!」
「なんだって斉木の兄ちゃん!?」
 燃堂くんと海藤くんは空助くんと面識があったみたいだ。初対面らしい窪谷須くんは楠雄くんと空助くんをチラチラと見比べている。
 空助くんは四人が座る席に近づいた。
「やあ、こんにちは。改めまして楠雄の兄です」
「おう久しぶりだな! 元気してたか?」
「おい燃堂、馴れ馴れしいぞ!」
 海藤くんが燃堂くんの制服を引っ張る。そのあいだに窪谷須くんが立ち上がって丁寧なお辞儀をした。
「はじめまして、窪谷須です。斉木君にはいつもお世話になってます」
「だってよ楠雄。ほら楠雄も何か言ったら?」
 楠雄くんはなおも黙ってラーメンを啜っている。
「なんでここに来たかって? もー、わかってるくせに。楠雄がいつもここで大親友とラーメン食べてるってよく話してくれるじゃないか。だから僕も食べてみたくなったんだよ」
「斉木お前、俺たちのことそこまで……!」
 海藤くんが目を輝かせながら楠雄くんのほうを見る。
「ダイシンユウってなんだ?」
「オメーは少し黙ってろ!」
 窪谷須くんが燃堂くんのアゴを押さえながら私のほうをチラッと見た。うっ……できれば私のことは放っておいてほしかった。無理なのはわかってるけど。
「ああ、彼女は僕の幼馴染で恋人なんだ。みんなと同じクラスなんでしょ? 羨ましいなあ」
 私の記憶はここで途切れた。