マッドΨエンティストを攻略せよ!07

「ラーメン来たよ。そろそろ起きて」
「えっ、空助くん? ……ってうわぁ!」
 私はどうも空助くんに寄りかかったまま気を失っていたようだ。え、近すぎる。それになんかいい匂いがする……。
「おっともう気絶はしないでね。ラーメン伸びちゃうから」
 いい匂いの正体はラーメンだったようだ。しかしこれは一体どういう状況だろう。
 まず、カウンター席の隣には空助くんが座っていて、目の前にはおいしそうなラーメンが二つ。そしてさっきまで楠雄くんたちが座っていた席は綺麗に片づけられている。
「みんなはどうしたの……?」
「楠雄たちならもう食べ終わって帰っちゃったよ。ほら僕たちも食べよう」
 空助くんは割り箸を綺麗に割って、ラーメンを食べ始めた。うわー動画に撮りたい。これだけでご飯三杯はいける。
 ……いやいやそんなことしてる場合じゃない。私もはやく食べないと。
 しかし急いでいたからか、私が割った割り箸は見るも無残な姿になってしまった。
「あはは、ヘタクソだね~!」
 凶器のようにとんがった割り箸を見て空助くんが笑う。別にいいもん、空助くんが笑ってくれるなら。
「……あ、おいしい」
「だね~。教えてくれた楠雄に感謝しないと」
「楠雄くん、さっき迷惑そうにしてなかった?」
「楠雄は照れ屋だからね~」
 照れとかそういう次元じゃなかった気もするけど。まあ私より空助くんのほうが楠雄くんのことよくわかってるだろうから、大丈夫なんだろう。
 ラーメンを食べ進めているうちに私はある重大なことを思い出した。そう、彼女。空助くんがみんなの前で私のことを彼女って言ってくれたんだった。それで嬉しすぎて私は気を失っていたのだ。
「空助くん、あの……さっきの話なんだけど」
「なに? 楠雄が照れ屋って話?」
「もうちょっと前」
「あ、みんな帰っちゃったってやつか」
「そうじゃなくて……」
「僕がみんなの前で君のこと恋人だって言ったから、嬉しすぎて気絶しちゃったんでしょ?」
「……うん、その話」
 一つの間違いもなく言い当てられて心臓に悪い。空助くんは私の心を読めるのだろうか。
「何か問題あったかな」
「だって……恋人とか言っちゃったけど、来週には別れてるかもしれないし」
「へえ、もう諦めちゃったの?」
「そういうわけじゃないけど!」
「じゃあ問題ないよね」
 ……そうだ、空助くんの言う通りだ。弱気になっちゃダメ。
「ごめんね空助くん。せっかく空助くんが信じてくれてるのに」
「いやそういうわけじゃないけど」
「私、頑張るよ!」
「うん。まあ頑張って」
 空助くんが私のことを応援してくれている。そう思ったら俄然やる気が沸いてきた。なんとしてでも楠雄くんのピンを抜かないと。

 ラーメンを食べ終わった私たちは店を出た。そして、なんと空助くんが私を家まで送ってくれている。送るよ、と言われたときは正直耳を疑った。でも現実らしい。幻でも見ているのかと思ってさりげなく空助くんの服を触ってみたら、ちゃんと感触があったのだ。
「あれ? そういえばラーメンのお金払ってない。お店の人も気づいてなかったよね? 戻らなきゃ!」
「君が気絶してるあいだに払ったよ」
 さらりと空助くんが言う。ってことは私の分まで払ってくれたってことだ。いま気づいたからいいけど、気づかなかったら空助くんは言わないつもりだったのだろう。
「私の分払うね」
「いいよ別に」
「でも……」
「大丈夫。貯金なら八十億くらいあるし」
(……八十億?)
 聞き間違いだろうか。それとも冗談? 突っ込み待ちかなあと思っていたけど、迷っているうちに空助くんが口を開く。
「ここは彼氏に奢らせてよ」
「……ひぇ」
 なんだか今日の空助くんはいつもと違う。これってもしかして……私のこと好きになってくれた? じゃないとこの態度の説明つかないよね?
 楠雄くんとの勝負を決して諦めたわけじゃないけど、これなら負けても別れなくて済むかもしれない。みんなの前で彼女だって紹介してくれたのも、別れる気がないっていうなら納得だし。

「送ってくれてありがとう」
「彼氏だし当然だよ」
(やっぱり……!)
 初日の空助くんなら絶対こんなこと言わなかった。感極まって抱きつこうとしたらスルッと避けられちゃったけど、これはまだ正式なお付き合いじゃないから遠慮してくれてるんだ。うん、きっとそう!
「じゃあまた明日、楠雄くんのピン取ったら連絡するね!」
「頑張ってね」
 空助くんに見送られながら私は家に入った。ドアを閉めるときに外を見てみたら、まだ空助くんがこっちを見てくれていて胸が苦しくなった。しばらくドアを閉められずにいると、空助くんが手を振ってくれる。私も振り返して、やっとの思いでドアを閉めた。空助くんのことをどんどん好きになっていっているのがわかる。
 もし明日、楠雄くんのピンを取れたら改めて空助くんに告白してみよう。