マッドΨエンティストを攻略せよ!09
僕の名前は斉木楠雄。ド変態の兄を持つ超能力者である。で、そのド変態というのがそこのソファで呆然としている男だ。せっかくのコーヒーゼリータイムを邪魔しないでもらいたい。いきなり笑い出したりするから本当に気持ち悪いんだよ。あと頬を紅潮させるな。
しかし、空助がこうなった原因は僕にもある。押してだめなら引いてみろと彼女にアドバイスをしたのは、何を隠そうこの僕なのだ。まあ適当に言ってみただけなんだが。まさか別れるとまでは思ってなかったし、ここまで効果があるとはな。催眠能力を使って彼女を勝たせたのも、ただ彼女に付きまとわれるのが面倒だったからだ。決してコーヒーゼリーに釣られたわけではない。……これはなかなかの味だな。念のためもう一度言っておこう。僕は決してコーヒーゼリーに釣られたわけではない。
「ハァ、ハァ……付き合ってくださいって絶対また言わせてやる……」
ハァハァ言うな。ていうか土下座してヨリを戻してもらえばいいんじゃないか?
「なに言ってんだよ楠雄」
何も言ってない。おかしいな、テレパシーを飛ばした覚えはないんだが。まあ普段からキャンセラーありでも会話が成立しているから、コイツが僕の思っていることを全部想像して喋っているんだろうが……本ッ当に気持ち悪いな。
「僕があの子に土下座なんてするわけないだろ?」
(僕をそんな目に合わせていいのは楠雄だけなのに……。でも僕がズタボロになってるのを見たらあの子はどんな反応するかな……ふふっ)
想像して浸ってんじゃねーか。一刻も早くキャンセラーをつけてくれ。もしくは帰れ。サービスで家まで送ってやるから。
「え? 送ってくれるの?」
ここに居座られるよりマシだからな。さて、前回はうっかり祖父を気絶させてしまったからコイツの部屋にでも飛んでおくか。
「いやー。やっぱり便利だね。僕も作ってみようかな、時空間転送装置」
本当に作ってしまいそうなところが怖い。まあこのまま時空間転送装置とやらに熱中してくれればいいのだが。
「あれ? まだ帰らないの? 僕が作った対楠雄専用オメガぽち丸の試作品でも見てく?」
見なくていい。帰らないんじゃなくて帰れないんだ。知ってるだろ瞬間移動にインターバルがあるって。
「にしても暇だなあ。……あ、そろそろあの子も家に着いたかな?」
おい何やってる。
「何って位置情報確認してるだけだよ」
彼女は知ってるのか?
「気づいてないんじゃない?」
最低だな。
「やろうと思えば盗撮もできるけど、さすがに女の子相手にそれはね。……あ、でも楠雄はいつでも千里眼で視えるんだっけ」
人を覗き魔みたいに言うな。
「そうだ楠雄、せっかく来たんだし僕と勝負――
おっと時間だな、失礼させてもらう。
次の日、僕は恐ろしいものを見てしまった。
登校して席に着くなり、
「楠雄くん……あのあと空助くんどんな感じだった?」
と彼女が憔悴しきった顔で聞いてきた。こうかはばつぐんだったぞ。それで僕も少し気になってアイツのことを千里眼で視てみたら、「彼女」が空助にお茶を淹れているところが視えたのだ。自分がおかしくなったのかと思ってもう一度確認したが、間違いなくいる。お茶が終われば今度は掃除機をかけ始めていた。
「楠雄くん、どうしたの?」
どうしたもこうしたもない。ホームルームまであと五分はあるな。トイレに行くふりして戻ってきたらギリギリか……。まあ仕方ない。
「あ、楠雄。やっぱり覗き見してたんだね」
瞬間移動で空助の部屋に飛ぶと、空助は驚いた様子もなく彼女の頭をポンポンと撫でた。テレパスキャンセラーを付けている時点で僕が来ることは読んでいたんだろうが、一体どういうことだ?
「ああ、これ? これは僕が作った家政婦ロボットだよ」
兄がいつか犯罪者になりそうで怖い。趣味悪すぎだろ。というか一日で作ったのか。
「よくできてるでしょ」
知らん。こんなことするぐらい拗らせてるなら早く謝ってしまえばいいものを。
「……」
珍しく黙ったな。いつも僕の思考を読んで勝手にべらべら喋るくせに。遅刻しそうだから僕は戻るが、そのロボットは廃棄しておけよ。
「おう相棒、ウンコか?」
違う黙れ席に戻れ。
……なんとかギリギリ間に合ったな。遅刻なんてしたら目立ってしまうから、僕としては避けておきたいのだ。
僕が席についてすぐホームルームが始まった。彼女がチラチラこちらを気にしているのには気づいているが、僕は一切目を合わせない。もうかなり手遅れなところまで来ているような気がする。僕だってまさか空助があんなになるとは思わなかったのだ。いっそ空助のキャンセラーを壊して強制以心伝心でもしてやれば……いや、空助の思考がわかったところでアイツは相当ひねくれているからな。余計にこじれそうだ。というかなんで僕は協力しようとしているんだ。放っておいても面倒なことになりそうだが、仲を取り持とうとしても一筋縄ではいきそうにない。もう明日起きたらくっついてないかな、あの二人。