ポイズン・キス12.5
キラキラした顔で毒の効能について述べる彼女を、南雲は頬杖をついてうんうんと頷きながら見つめていた。いつかこの子に殺されちゃうんじゃないかなあと何度か思ったこともある。もちろん本当に殺される気なんて、全くないのだが。
「ねえ、いつになったら挨拶できるの?」
ギク、と彼女は肩を強張らせた。これ以上の引き延ばしは無理だと思ったらしい。挨拶の日時はあっさりと決まった。
それで結論から言うと、お茶にもお菓子にも毒物は入れられていなかった。あらあら娘をよろしくねえという感じで終始、和やかな雰囲気だったのだ。その中で一番居心地が悪そうにしていたのは彼女だ。
「毒、入ってなかったよね?」
帰りのヘリの中でそう言えば、ギクリと彼女が固まる。つい最近、どこかで見たような光景だ。そんなに気まずい思いをするなら「毒入れといて」って事前に連絡しておけばいいのに。おそらくそういう発想はないのだろう。
「せっかく二カ月も頑張ったのにな~」
「……ごめん」
「僕、歓迎されてた?」
「多分……」
シュンと落ち込む彼女がかわいい。もう少しいじめたくなるものだが、彼女に関しては甘やかしたい欲のほうが勝っていた。でも毒に強くなれてよかったよ。これは心からそう思っての言葉である。
JCCに着き、いつものように変装して彼女の部屋に行こうとすると、困惑したような反応が返ってくる。今日の分の毒をまだ飲んでいないと言えば、彼女は目を真ん丸にした。
「……まだ、特訓続けるの?」
「ってことはきみは終わる気だったんだ~。ひどいなあ」
彼女は、なおも訳がわからないといったような顔をしている。特に説明もしないまま寮の部屋まで向かい、変装を解けばようやく彼女が口を開いた。
「……毒飲むの、好きになってくれた?」
「好きではないかな~」
ズレたことを言うのでアハハと笑っていたら、彼女はおずおずと今日の分の毒を差し出してきた。なんというか、欲に忠実である。とにかく何でもいいから飲んでもらいたいという気持ちがあるのだろう。
毒に慣れたからといって、効かないわけではなく、けれど死にもしない濃度のものを出してくれるところは、優秀なんじゃないかと思う。毒屋を継ぎたいという部分に関しては、南雲は何の心配もしていなかった。彼女の実家を訪れて、卒業後に働く姿も想像できた。しかし一番心配なのが、JCC在学中に死んでしまうんじゃないかというところだった。
彼女の学校の成績は良いほうではないし、それが過小評価ということもない。毒を作るだけでは殺し屋にはなれないということである。何より、彼女の行動は基本的に「捨て身」であった。実習でペアを組んだときは、何度肝を冷やしたことか。
進級が危ういときには手助けしたいという気持ちもあるし、実際に頼まれたら何だってする。だが同時に、退学してしまえば死の危険からは遠ざけられるんじゃないかという気持ちもあった。しかしそうなってしまえば、これからのJCCでの生活に彼女がいなくなってしまう。それは嫌だ。おそらく、この葛藤はどうすることもできない。
結局南雲にできるのは、彼女の選択を受け入れることだけだ。もちろん彼女が課題で死んだりすることのないように手出しするつもりではいるのだが、南雲の手の届く範囲には限度というものがある。
「これから先さあ、僕が絶対毒じゃ死なないようにしてくれる?」
「それは無理だよ」
「きみが作った毒を飲み続けても?」
「許容量が増えるだけ。私だって最後は毒で死ぬかもしれない」
「そっか~。でもまあ、強いに越したことはないんだし、ずっと僕のこと鍛えてよ」
「うん……?」
彼女の頭上にはハテナが浮かんでいた。伝わっている気が全くしない。「ずっと」って一生って意味なんだけど。言ったら面白い反応をしてくれそうだが、わざわざ教えてあげるのも癪だ。いつになったら気づくのか、そして気づいたときにどんな反応をするのか、それを楽しみにするのもいいかもしれない。